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【燃えろ!!デブ野球】第11回「タイロン・ウッズのホームランはまるで上質なポップソングのようだった」

燃えデブ第11回は、6年間で3度の本塁打王と3度の三振王に輝いた超大砲ウッズ!

圧倒的なラーメンのボリュームにあの選手を思い出す

 
 日本のエンタメ業界はミスター高橋の著書『流血の魔術 最強の演技 』(講談社+α文庫)発売以降、変わってしまった。

 プロレス好きの友人が『ラーメン古潭(こたん)』で注文を待つ間、そう言った。いやそんなわけないだろう、かなり昔のことだし、あの暴露本の内容って現役レスラーが実際のリングは違うことも多いって突っ込んでたぞなんて真っ当な返答をする俺。世の中のすべてをプロレス基準で考えるのはプロレスファンの悪いクセだ。違うんだ、あれがそれなりに売れてから、堂々と“裏側のカミングアウト”というジャンルができちゃったんだよ。例えば、最近じゃ下積み時代の長かったグラビアアイドルが苦労の末に売れるSNSの使い方を見つけましたみたいなさ。勘弁してくれよ、そんな舞台裏ストーリー知っちゃったら呑気にグラビア楽しめないじゃん。あぁ、確か「ポップソングに意味があってはならない」って村上龍も何かに書いてたな。それよ、今さ世の中にはポップでもロックでもない、重い演歌みたいなグラビアばかりだよ…なんつって二人して古潭名物“ハットトリックラーメン”を啜りながら、今週も高カロリーの『燃えデブ』が始まった。

広いナゴヤドームで年間40本塁打以上記録した打者は、ウッズのみ

 
 それにしても凄まじいボリュームだ。豪快に餃子とチャーシューと男の夢全部乗せのグレイトなトッピング、まさにハットトリックラーメン。そんな迫力に往年のタイロン・ウッズのパワーを思い出した。69年生まれ、185cm102kgのヘビー級体型で韓国球界本塁打王の実績を引っさげ、03年に横浜入団。いきなり来日初年度から40本塁打(ついでに132三振)でタイトル獲得。翌04年も45本塁打で2年連続のキングに輝いた。動いたら死ぬ的な呪いなんじゃないか…とすら噂された恐ろしく守備範囲の狭い一塁守備とチャンスの弱さを指摘されることも度々あったが、05年からの中日移籍後は落合ドラゴンズの主砲として君臨し、06年には47本、144打点(ついでに151三振)という凄まじい数字で二冠獲得。チームのリーグ優勝に大きく貢献する。この年の本塁打数と打点数は(ついでに三振数もトニ・ブランコに抜かれるまで)球団最多記録。なお中日が本拠地を広いナゴヤドームに移してから、年間40本塁打以上を記録した打者はいまだウッズのみである。

中日がリーグ優勝した2006年、神がかったウッズの活躍は忘れない

 
 とにかく06年の神がかった活躍は今でも語り草だ。1シーズン4本の満塁アーチ、さらに阪神と優勝争いを繰り広げた9月以降に15本塁打の大爆発。リーグVを決めた10月10日の宿敵・巨人戦では先制3ランに加え、延長12回には東京ドームに集結したレフトスタンドの竜党に向かって劇的グランドスラムをぶち込み、セ界の中心で落合を叫ばせた。07年、08年も2年連続で35本塁打を打ったが、ウッズのピークは間違いなく2006年だろう。映像を確認すると、打席ではまるで“右のバリーボンズ”のような雰囲気を放っている。

 自分は巨人ファンだが、あの頃のウッズの打撃を球場で見るのが楽しみだった。当時、サッカー関連の仕事に就いていたが日本代表のドイツW杯惨敗で案件が激減し、暇を持て余した俺は再びプロ野球に帰ってきたわけだ。ウッズの特大ホームランは見るものを圧倒する。そこにストーリー性が関与する余地もない迫力だ。いわばロックンロールの衝動もなければ、もちろん演歌の情念でもない。何の意味もない。無駄なものも何もない。シンプルで美しい、上質なポップソングのような一発である。

 なおタイロン・ウッズはNPB通算240本塁打、ついでに855三振。横浜と中日合わせて実働6年なので、「年間平均40本、142.5三振」という誰よりもパワフルでシンプルなホームランアーティストだった。

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