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【燃えろ!!デブ野球】第22回 牛たれカツ丼を食べながら、「二塁マギー」を忘れないでいようと心に誓った京セラドーム

燃えデブ第22回は巨人軍第87代4番打者にして、昨季セ・リーグ新記録の48二塁打を放ったケーシー・マギー!

京セラドームのオリックスVS巨人戦を前に20年前アルバイトしていた店へむかった。

 20年前にアルバイトしていたビルへ行った。

 なんて暇なんだ…じゃなくて、週末にちょうど京セラドームのオリックスvs巨人戦を観戦する機会があったので、大学1年時に働いていた、あべの新宿ごちそうビルに立ち寄ってみたわけだ。もちろん当時の店舗はほとんど入れ替わり、自分がバイトしていた8階の『新宿直行便』という居酒屋もなくなり別の店が入っていた。恐ろしいのが、気が付けば「懐かしい思い出」としてあの頃を振り返っていたことだ。いやいやちゃうやん、バイト行くの死ぬ程かったるかったやん? 時給もたいして良くないし、いい思い出なんかほとんどないはずなのに…。1階の『京都勝牛』で元祖牛たれカツ丼をかき込みながら、追ってくるノスタルジーに蹴りを入れ、今週も『燃えデブ』が始まった。

 過去とは美化された嘘である。時間はあらゆるものを曖昧にしてしまう。どんなさえない思い出も過ぎてしまえば、心のアルバムの1ページだ。だから、近すぎず遠すぎず過去との距離感は重要になってくる。映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観た時も痛感した。アメリカ女性選手初となるトリプルアクセルを成功させたフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの半生を描いた本作では、その暴力が支配する生い立ちからの成り上がりスケート人生と、世界中を揺るがしたナンシー・ケリガン襲撃事件の混乱の内幕(それぞれの証言の食い違いを含めて)を映像化している。主演マーゴット・ロビーはプロレス的ヒールであり、天才スケーターであり、なにより時代を象徴するポップスターだったトーニャを完璧に演じる。今思えば、下世話なTVショーに恐ろしい勢いで消費されていくトーニャ・ハーディングは、マイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズとはまた別のベクトルで「90年代アメリカ」を象徴していたのである。

ケーシー・マギーは2017年の巨人の象徴であった

 象徴と言えば、週末の京セラドームで目撃した巨人打線の5番三塁ケーシー・マギーを見て、ふと昨シーズンの巨人のことを思い出した。背番号33は「2017年の巨人の象徴」だったからだ。公称185cm、100kg。日本一に貢献した楽天時代より、かなり増量して現れた昨年の春季キャンプを見て、こんなコラムを書いた記憶がある。

 『2塁マギーとは回転寿司のプリンみたいなものだ。回転寿司に行って、たまに食うプリンは超美味い。で、その場も「おまえ1皿目からプリンかよっ!」と盛り上がる。食事のオプションとしては最高。けど、プリンが店のメインディッシュになったら、かなりヤバイ』

 要は二塁マギーは緊急時のオプションでしょ…という何の先見性もない原稿で申し訳ないのだが、ご存知の通り、球団最多の13連敗を記録した去年の巨人は7月12日のヤクルト戦から「2番セカンド マギー」を解禁。その究極の無茶振りにもかかわらず、マギーは文句ひとつこぼさず「打率.315 18本 77点 OPS.897」にリーグ新記録の48二塁打と素晴らしい活躍をしてくれた。つまり、巨人ファンは東京ドーム回転寿司へ行って、毎日極上のプリンを食うレア体験をしていたわけだ。その一方で、「美味いんだけど、これじゃねぇ…」的な漠然とした不満。ドラクエの新作買ったら、『バンゲリングベイ』が抱き合わせ販売されてきたあの不完全燃焼感があったのは否めない。

今だからこそ、マギーが2塁を守ってくれたことを書き記しておきたい

 12年オフ、巨人獲得と報じられながら契約直前で急転直下の楽天入り。メジャー時代は起用法が安定せず試合に出たり出れなかったりの日々。それが来日すると故・星野仙一監督から「どんな状態であろうが、毎試合プレーしてくれ」と声を掛けられ発奮した助っ人は、主軸打者として楽天初の日本一の原動力となる。シーズン終盤には「来年、ボスはどうするんだ? 俺はボスのいるところでやりたい」と明言するほど闘将との関係は良好だった。チームメイトの銀次のエラーを叱るコーチに対して、「あんなに打ってるじゃないか」とかばい怒るマギーさん。間に入ってなだめたのは、なんと星野監督だったという。
 
 そんな星野さんも今年1月に亡くなり、マギーも巨人2年目の今シーズンは昨年ほどの成績は挙げられていない。35歳という年齢を考えると来季以降の去就は不透明だ。だからこそ、今日はマギーの原稿を書きたかった。みんな過ぎ去った時間はどんどん忘れていき、曖昧な記憶の断片だけが残る。2018年の巨人は21歳の岡本和真が新4番として起用され、2年目の吉川尚輝やルーキー田中俊太が二塁を守り、「ついに鮮度のいいピチピチの若手が出てきてくれたぞ」とファンも盛り上がっている。このふたりが二遊間を組んだ週末の京セラドームは確かに楽しかった。

 けど、俺は何十年経っても、マギーが二塁を守ってくれた過去を忘れないでいようと思う。

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