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デスパイネはNPBで最も「ガチンコ」の場数を踏んできた男ではないだろうか?【燃えろ!!デブ野球】第42回

燃えデブ第42回は日本シリーズのキーマン、ソフトバンクの至宝デスパイネ!

無限にあると思ったチャンスも、いつの間にか泣きの一回になっちまう

 今思えば、チャンスはあの時だった。

 ドラフト会議も終わり、各球団の戦力外通告のニュースが毎日のように入ってくる。以前、何人かの元プロ野球選手に取材した際に共通して「終わってみれば、あそこが勝負でしたね」と本人が振り返る野球人生のターニングポイントがあった。レギュラー選手がケガした直後、監督が代わったオフ、突然の1軍昇格……。でもダメでしたねと力なく笑う男たち。そこで仮にしくじっても、チャンスはまた次来るって、来ないよ。無限にあると思ったチャンスも、いつの間にか泣きの一回になっちまう。で、気付いたらいい歳さ。

 就活でも、仕事でも、合コンでもそういう瞬間はある。いや、あった。あれもうちょっと攻めてればいけたかも的なあの感じ。仮にドラフトであの選手を当てていたらみたいな野球ファンあるある。もしも新生UWFが解散してなかったらというプロレスファンの永遠のロマン酒ネタ。もういい加減にしろよと思いつつ買っちゃう年末ジャンボ宝クジとUWF本。高田延彦は『証言UWF 完全崩壊の真実』(宝島社)の中で「プロレスとリアルの過渡期を生きたUWFというのは、携わった者がそれぞれの人生のなかで、必死にもがいていた時代のことなんでしょう」とたまらない台詞を口にしていた。「必死にもがいていた時代」か……あえて臭い書き方をすると、それがたぶん「青春」と呼ばれる時間だろう。なんつって炭焼きステーキハウス『くに』で分厚い肉をかっ食らいながら、今週もワイルドステーキコラム『燃えデブ』が始まった。

キューバ球界BIG3が日本球界へやって来た時はサイヤ人襲来のような感覚だった

 さてNPBの究極のガチンコマッチ、日本シリーズ真っ只中だ。第1戦の延長12回引き分けは見応えがあった。1986年以来の32年ぶり初戦引き分け、両軍合わせて1ゲーム27三振、15投手登板はシリーズ記録。広島とソフトバンクが誇るブルペン陣が極限の集中力で投げきればあれだけ堅い試合になる。さらに第2戦の左翼デスパイネを徹底的に突く戦略もシリーズならではの風景だった。だから98年日本シリーズの西武ドミンゴ・マルティネスは基本DHだったのかと20年前を思い出すデスパイネのズンドコ外野守備。不思議なもので、こうなると背番号54を応援したくなってくる。

 というのも、彼は“キューバ選手国外移籍解禁”の象徴でもあるからだ。2014年、フレデリク・セペダ、ユリエスキ・グリエル、そしてアルフレド・デスパイネというキューバ球界BIG3が立て続けに日本球界へやって来た。キューバ地元紙「トラバハドーレス」電子版で連日、日本球団が現地ハバナで入団テスト実施と報じられていたのもこの頃だ。近年、プロ野球であんなにワクワクしたことはない。この情報社会でマイナーリーグの選手の動画までネットで見れる時代に、未知なる大物が来日する。マジで凄いらしいよと。なにせ、セペダの代名詞は「速すぎて見えないスイング」だ。ここで打率.000ってボールが見えなかっただけじゃねえかなんて突っ込みは野暮だろう。なんだか分からない飛行機恐怖症男グリエルにしても、球場で目撃した送球は品のいい正確なレーザービームというより、気ままなロケットランチャーと言いたくなるド迫力の強肩だった。なんなのこいつら? まるで我々はサイヤ人襲来のような感覚でキューバのスター選手たちのプレーを楽しんだ。

 そう言えば、デスパイネもロッテでの来日初打席は中堅手が打球を見失う超フライ「見えない三塁打」だった。キューバ国内リーグ参加のために開幕には間に合わないとか、夏には代表招集のため2週間離脱みたいな売れっ子キャバ嬢みたいなハードな時間的な縛りや、「デスパイイネ」ののりピー語的な昭和ノリはこの厳格な現代野球において異質だ。仮に巨人を戦力外になった中井大介が「ナカい〜ね」とかやってたら軽くネットで炎上してただろう。PS4にビール好き、公称体重95kgより余裕でオーバーしてそうな太鼓腹。ちなみに至宝セペダはベンチでコカコーラを一気飲みして、ダッグアウト裏では飴を舐めるのではなく、もはやガリガリと食っていたという。

個人的に2018年日本シリーズのキーマンはこのデスパイネだと思う

 そんな自由気ままなキューバBIG3も、現在NPBでプレーしているのはデスパイネだけだ。昨季は35本、今季も29本塁打。来日5年目、すっかり同郷モイネロの良き兄貴分キャラも定着してきた。個人的に2018年日本シリーズのキーマンはこのデスパイネだと思う。2015年CSファーストステージ第3戦では札幌ドームで勝負を決める決勝ソロアーチ。2017年の日本シリーズもチームトップタイの4打点を挙げた。今年の第1戦でも代打で登場するとタイムリー内野安打に相手エラーを誘う渋い働きを見せた。

 だって、このデスパイネという選手は、今のNPBで最もシビアな「ガチンコ」のシュートマッチの場数を踏んできた男ではないだろうか? キューバでプロ野球選手は国家公務員扱い。まさに文字通り国際大会は国を背負ってのガチンコマッチだ。

 もう8年前の話になる。2010年の第5回世界大学野球選手権。日本のある学生投手がキューバ代表の4番デスパイネと名勝負数え唄を繰り広げていた。まさに最強vs最強。マウンド上の男はデスパイネに対して、キャリア最速となる157キロを記録している。最後は外角へ146キロの高速スライダーで空振り三振。神宮球場はどよめきと狂熱に支配された。この日本の学生投手とは、本日満場一致で沢村賞に選出された当時東海大3年の菅野智之である。

 相手の最高の力を引き出す、短期決戦の鬼デスパイネ。この男こそ、いまだUWF的な“最強幻想”を夢見たくなるキューバ産スラッガーなのである。

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