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原巨人の中島調査に「過剰の美学」を見たストーブリーグ前哨戦【燃えろ!!デブ野球】第43回

燃えデブ第43回はオリックスを自由契約となり去就が注目される中島宏之!

プロ野球選手でもサラリーマンでも20代後半にもなれば若手ですらなくなる。

 人は何歳まで「若手」と呼ばれるのだろうか?

 日本シリーズも終わり、球界のストーブリーグのニュースを聞く度にそう考える。巨人では89年生まれの中井大介や94年生まれの辻東倫が自由契約となり、90年生まれの橋本到が楽天へ金銭トレードされた。中井、橋本、辻と言えば、数年前の巨人を代表する“期待の若手”だった。高卒で巨人入りし、イースタンで多くの打席数が与えられた強化指定選手たちである。

 それがわずか数年で……ってそう言えば、個人的に28歳から29歳にかけて転職活動をしていたが、履歴書の年齢を見た面接官に「もうすぐ30なんだね」と突っ込まれ、始めて「自分の若者と呼ばれる時期が終わるんだな」と思った。で、焦った。面接で己の“若さ”以外の何かをアピールしなければならないからだ。「僕は21世紀の巨人全助っ人選手をフルネームで時系列順に言えます」とか「新日本プロレスのYOHもああ見えて30歳ですよ」なんて自己紹介したところで完全に狂ってると思われるだけだろう。今の自分にできることは何か? 腹を括って、守備固めでも代走でもチームで生き残る術を探す。プロ野球選手でもサラリーマンでも「期待の若手」はやがて「普通の若手」になり、20代後半にもなれば若手ですらなくなる。そして大人になるしかないのだ。大人にね……なんつって『肉食堂 優』で肉厚ハンバーグを食らいながら今週もミートグッバイコラム『燃えデブ』が始まった。

中島は西武一筋でプレーし続けていたら、今季あたり通算2000安打を達成していたかもしれない。

 肉食堂の店内では、大学生風の男女2人組が深刻な顔で話し合っていた。「チーフも酔っ払いの客もキモいし、もうホールでの接客は嫌なんだけど」「でも俺ら調理とかできねぇし」みたいな会話だ。要はバイト辞めたいというわけだが、正直10年も経ったら、バイト時代の同僚の名前すら全く思い出せなくなる。安心してくれ、学生バイトは広い世界に出る助走期間にすぎない。走る前から準備運動でバテる奴いるかよ(猪木風)。でも、大人になっても人生思い通りいくとは限らないんだけどさ。オリックスを退団した中島宏之を見ていてもそう思う。

 若い野球ファンからしたらギャグに聞こえるかもしれないが、西武時代の中島は本当にいい選手だった。ピーク時には打率3割、20本塁打、90打点、20盗塁をクリアする勝負強いショートストップ。北京五輪やWBCでも日本代表に選出された若きスター選手である。それがアスレチックス移籍後は故障にも苦しみ、メジャーでまったく戦力になれずに身体のキレも失われ別人のようになって帰国。15年にオリックスで日本復帰するも、年俸3億5000万円分の働きはできずに18年限りで退団となった(17年は123安打を放ち打率.285と意地を見せたが)。若手時代は公称180cm、83kgが36歳の現在は90kg。三塁と一塁のバックアッパー兼右の代打を探す巨人が獲得調査と報じられている。

 もしも2010年オフのポスティングか球団から許可されていたら、2011年のポスティングで落札されたヤンキースへそのまま入団していたら……。いやそれ以前に西武一筋でプレーし続けていたら、今季あたり通算2000安打を達成して西武10年ぶりのリーグ優勝に花を添えていたかもしれない。なんて無意味と分かりつつ突っ込みたくなる中島のキャリア。日本復帰は西武じゃなくオリックス、これは兵庫生まれだからまだ分かる。でも、巨人? WBCの繋がりとか08年日本シリーズの因縁とか、いったい何年前のアングルやねんという感じだ。いまいち分からない。プロ野球だけじゃなく、あらゆるエンタメにおいて“分からない”は感情移入がしずらいことを意味している。勘違いしないで欲しいが、巨人サイドから見たら、中島は獲っておいて損のない選手だ。ピーク時より年俸はかなりお得で経験と勝負強さ(今季得点圏打率.328)を兼ね備えたベンチにいたら心強い存在、仮に故障しても年齢的に想定内だろう。でも、一昔前のパ・リーグ選手のように引退前に巨人体験パターンに見えてしまうのも事実だ。

原辰徳とはプロレス頭脳を持った過激な仕掛人である。球界の新間寿だ。

 ナカジ、あんたそんなタマじゃねーだろと。ミスターレオと呼ばれてもおかしくなかった男、いや松井稼頭央になり損ねた男……と書いててふと思ったのが、もしかしたら「そんなタマじゃない」から、あえて原監督は劇薬の中島を獲得しようとしているのだろうか? 原辰徳はプロレス好きとしても知られ、95年10月8日の東京ドームで自身の盛大な引退試合をやった翌9日、同じドームであの新日本プロレスvs.Uインターの対抗戦を観戦している。この日、メインイベントで高田延彦と戦った武藤敬司は雑誌KAMINOGEのインタビューでこう冗談めかして語る。

「原監督っていうのがまたプロレス好きで、リングサイドに観に来てて、俺の“プロレスLOVE”をパクって、“ジャイアンツ愛”を作ったんだから」

 そう原辰徳とはプロレス頭脳を持った過激な仕掛人である。球界の新間寿だ。思い出してほしい。新間は「私は既に数十人のレスラーを確保した」なんつってUWFオープニングシリーズのポスターでぶちあげたが、原監督も「私は既に数十人の野球選手を確保した」的な動きをストーブリーグで見せている。

 過剰に過剰に盛っていく。丸、炭谷、岩隈、中島の獲得調査。そして阿部の捕手復帰まで。由伸巨人に足りなかったのは、この手の“過剰さ”だ。そう言えば、最近俺らもカロリーの過剰摂取から逃げてる気がする。黒ウーロン茶じゃねえよコノヤロー。ポテトLサイズを貪り食っていたあの頃のハングリーさを忘れてるんじゃないのか? ハンバーグの何が美味いかって、一見無駄にも思えるトッピングだ。プロ野球に、いやハンバーグに効率性を求めるような奴はアホである。

 2019年、俺は無意味にチーズをトッピングするような原野球を見たい。

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