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アメリカ帰りの頑固者・岩隈の巨人入りに感じた「いびつさ」の正体【燃えろ!!デブ野球】第48回

燃えデブ第48回は巨人電撃入団が決まった日米通算170勝右腕・岩隈久志!

すべてをガチで捉える人も当然いる現代は、バランス感覚が重要である。

 これからプロ野球とアイドルが対等に手を組む時代がやって来る。

 球場に野球があって、アイドルがいて、俺らファンがいる。誰が偉いわけでもない……というコラムを死亡遊戯ブログで6年前に書いた。ちょうど長澤まさみが『風とロック』の企画でジャイアンツ球場にやって来た頃のネタだ。その女優が目の前にいる。劇団新感線☆RSの『メタルマクベスdisc3』を見に行ったのである。ステージ上の長澤まさみは「そりゃあサムライ小笠原もデヘヘ顔になるぜ」と思わせる存在感。先週のザ・クロマニヨンズのライブでも甲本ヒロトが叫び、真島昌利がギターを搔き鳴らせばその瞬間に世界が変わった。圧倒的なパフォーマーは一瞬でその場を制圧するのだ。切ないくらいに長澤まさみは完璧だった(もちろんそのフォルムを一層際立たせる衣装担当の伊賀大介氏の仕事ぶりも凄い)。

 で、帰りは豊洲の中華料理屋でおっさん3人で脂っこい遅い夜飯をかっ食らう。ツマミはもちろん原稿に書けない野球ネタだ。巷ではフジテレビの『プロ野球珍プレー好プレー』が不謹慎と軽く話題だが、俺も領収書の整理をしながらテレビをつけていた。昔から良くも悪くも真剣にではなく、何かやりながらユルく楽しむ番組。でも、現代ではユルくじゃなく、すべてをガチで捉える人も当然いる。のんびり「失敗をどう笑うか」じゃなく、反射的に「失敗にどう突っ込むか」の時代。遠回しなアングルとか、行間を読んでくれみたいな発信の仕方は危険だ。かと言って、直接的すぎても炎上する。

 要はバランス感覚が重要なわけだが、そうなると『珍プレー好プレー』みたいな昭和のおちゃらけスケベ野球漫談とか、往年の『とんねるずのみなさんのおかげです』みたいなバラエティ番組はキツくなってくる。だって、あれはバランスを破壊する面白さだったわけだから……なんつって「マカエキス、にんにく、スッポンエキス、牡蠣エキス、アスパラギン酸配合」と強烈なポスターで推されている“マカにんにくサワー”を飲みながら、今週も珍コラム『燃えデブ』が始まった。

日米通算170勝右腕の岩隈が来季は巨人でプレーする。このニュースを聞いた時「岩隈らしいな」と思った。

 で、長澤まさみは堀越高校卒……。そう、野球界で堀越高と言えば岩隈久志である。ここで「燃えデブってどんどんデブキャラと関係なくなってるじゃねえか」なんて突っ込みは野暮だろう。デブとは体型じゃなく生き方だ(もはや意味が分からない)。191cm、95kgとオカダ・カズチカサイズのビッグな優男風に見えて、自分の意見をガツンと言う。近鉄時代から赤い帽子の頑固者。球界再編騒動では合併先のオリックス行きを拒否して、新チームの楽天へ。2010年オフにはポスティングでメジャー入りを目指すもアスレチックスとの交渉がまとまらず楽天残留。印象深いのは、第2回WBCで日本代表の主力投手として世界一に輝いた直後に行われたNumber731号でのインタビューだ。そこで岩隈は自チームの野村監督について聞かれ、こう答えている。

「他の球団だったらめちゃくちゃ楽しいと思いますよ。でも、やっている選手は……色々と疲れるね(笑)。僕は最初、分かりにくかったですね。言ってしまえば、面と向かって言ってくれた方がいいかなと。叱ってくれるなら叱ってくれた方がやりやすい。(マスコミを通じてしか)聞こえてこないから。簡単に言ってしまえば、監督のために野球やってるんじゃないから、と」

 なんと当時28歳の青年があの大御所ノムさんについてここまでぶちかましているわけだ。さすが田中将大も憧れた前年21勝を挙げた大エースである。楽天のエースを張り、メジャーでも活躍。そんな日米通算170勝右腕の岩隈が来季は巨人でプレーする。このニュースを聞いた時「岩隈らしいな」と思った。37歳のベテランで右肩手術も経験している。そりゃあ普通に考えたら、レジェンドとして慣れ親しんだ楽天で日本復帰した方がラクだろう。東北のファンも熱狂的に歓迎してくれる。だが、それでも原監督に口説かれて巨人入りを決断した。

「バランスなんてクソ食らえ」という雰囲気を感じるプロ野球はやっぱり面白いよ。

 オレはオレの決めた道を行く。This is 岩隈。もちろん故障持ちで全盛期より力は落ちている。けど、中島裕之と同じで“巨人らしくない”選手だ。前政権時の小笠原や谷、杉内や片岡にしても、原辰徳はこの手のパ・リーグの匂いがする個性派でチームの雰囲気を変える手法を取ってきた。あの由伸さんが選手時代に「パ・リーグの選手たちが移籍してきてロッカールームの雰囲気が変わった」と証言していたように、あえて違う血を入れて組織を活性化させる。カープから丸。そして炭谷、中島、岩隈というパ・リーグで育った男たち。

 原巨人の他球団から選手を集める、このミクスチャー感は個人的にけっこう好きだ。だって、ベースに「バランスなんてクソ食らえ」という雰囲気を感じるから。現代社会において、こんなデタラメが許されるプロ野球はやっぱり面白いよ。あの岩隈が巨人のユニフォームを着て投げる。なんて不自然で“いびつな風景”なんだろう。

 東京ドームで見れるサプライズ・ベースボール。違和感を削り取るスーパーフラットな世の中だからこそ、岩隈久志の持つ“いびつさ”は貴重なのである。

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