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ショーケンと澤村と傷だらけの31歳男のリアル【燃えろ!!デブ野球】第63回

燃えデブ第63回はDeNA戦で1651日ぶりの先発マウンドへ上がった澤村拓一!

昭和のムービースターの匂い。それは今の世の中からは失われつつある激辛カレーライスみたいなクセになる過激さだ。

 先月末、ショーケンが亡くなった。

『傷だらけの天使』をリアルタイムで追えた世代ではないが、2000年前後にちょっとしたショーケンリバイバルブームみたいのがあった(雑誌STUDIO VOICEの表紙を飾ったり、やまだないとが漫画化したり)。社会人になってから今はもうない「銀座シネパトス」の“萩原健一映画祭”で、30年振りの劇場上映という『誘拐報道』(82年作)を観た。主演のショーケンは撮影時31歳。その強烈な個性は好みが分かれるだろうが、とにかく全編を通して演出も演技も過剰だ。

 やりすぎ、とかそんなレベルではない。例えば、衰弱した少年を抱えながら「目を覚ませよっ!」と絶叫して頬を張る場面では、熱演するあまり少年をボコボコにしばいているようにすら見える。それに負けじと、ショーケンの妻役で出演している若き日の小柳ルミ子は、パートの肉体労働で汗だくになり着替え中に鏡に映る己の姿に絶望し、突然自らのパイオツを揉みしだくという破壊的な行動に打って出る。どうだコノヤロウなんだコノヤロウとひたすら観客にかち食らわし続ける。それは劇中で80年代前半の球界のニューヒーローとしてスクリーンに映り込む原辰徳ポスターと同じく、今の世の中からは失われつつある激辛カレーライスみたいなクセになる過激さだ。いわゆるひとつの昭和のムービースターの匂い。果たして令和の大スターはどうなるんだろうな……なんつって有楽町の『カレーショップC&C』で男爵コロッケカレーを食いながら今週もマッスルブラザーズコラム『燃えデブ』が始まった。

プロ9年目の31歳、澤村拓一。1651日ぶりの1軍先発登板。

 そこで巨人の澤村拓一である。岡本太郎デザインロゴ入りの近鉄バファローズの帽子がマジ似合いそうな公称体重102キロのビッグボディは、週末のDeNA戦で1651日ぶりの1軍先発登板。もはや五輪クラスにレア。4年に1度登場する『こち亀』の日暮熟睡男みたいになってきたが、3回0/3を3安打4失点3四球で敗戦投手に。1点リードの4回裏、筒香・宮崎に連続四球からロペスに同点タイムリーを浴びてジ・エンド。16年には37Sで最多セーブ獲得、キャリア通算275試合投げてきた31歳が、まるでプロ初先発のルーキーのようにあっさり代えられた。しかも、原監督は先発再転向時に「1点を守るのは窮屈そうに見える。お前さんの良さは俺はよく知っている。自分を小さく、窮屈にしているように見える。先発として頑張ってくれ。1点、2点、3点くらいいいじゃないか。そういう野球をやってみろ。智之(菅野)に匹敵する投手にお前はなれる」(2月26日付スポーツ報知)なんて、褒め殺しオファーをしているにもかかわらず実戦になれば見切り早く秒殺だ。恐るべしタツノリのアメとムチ。

 正直、ベンチは澤村のことをまったく信頼していないように見えた。いくら150キロ連発しようが、お前さんこれが現実だよ。そんな継投だ。球団公式ページの試合後原コメントは「スタミナというかね、そういうところ。もう少し(先発転向して)時間が必要だったのかなと。あれを越えていかないとね。補うところが見えたということ」なんてあっさり補習モード。しつこいようだけど、彼は18歳じゃなくプロ9年目の31歳である。今でもよく覚えているが、2011年3月初旬の東京ドームデビュー戦はルーキー澤村を見るためにオリンパスの双眼鏡を買って球場へ向かった。そう言えば当時の俺は死ぬほど暇な31歳だった。あの頃は菅野入団前で、澤村と宮国が巨人ファンの希望のすべてみたいな時代の話だ。

今の巨人には何でもある。でも、笑いだけがない。真剣勝負の中のオアシスみたいな存在。澤村拓一ってそれじゃん。

 だからこそ、ここ数年の剛腕はもどかしい。うーん、アイドルグループの熱狂的ファンが卒業後の元メンバーのスキャンダルのニュースを耳にしちゃった気分に近いのかもしれない。おいおいしっかりしてくれよと。俺ら本当に応援してたんだよって。そんな暗い顔、見たくねぇから。先発か抑え以前に周囲とはちゃんとコミュニケーションとれてるか? 色々と心配かけんなよって。巨人が強かった頃、1年目から200イニング投げて二桁勝って、みんなで“マッスルミュージカル”とかやってたじゃん。でも、もうそんな雰囲気じゃないよね。男31歳、何の余裕もない。プロ野球選手でも会社員でも元アイドルでも、31にもなって何者でもない、自分のポジションがないっていうのは恐怖だ。ノリでなんとかなる10代、ハッタリでしのいだ20代、でも30代は一種のリアルさを求められる。周囲を納得させるだけのカネとか実績とかそんなものだ。もうガキじゃない。だから焦る。ハマスタの傷だらけの背番号15は死ぬほど切実だったよ。

 平成最後の巨人軍。タツノリが帰ってきて、MVP丸も来て、ゲレーロが復活して、今の巨人には何でもある。でも、笑いだけがない。数年前の村田さんのゲッツーとか大田泰示のヘッドスライディングとかセペダのストライク避けるムーブとか、あの枠だよね。真剣勝負の中のオアシスみたいな存在。澤村拓一ってそれじゃん。日本シリーズのマウンドで阿部先輩からぶん殴られて絵になる投手が他にいるか? 球界最高給の大エース菅野にそんなことできるわけないし、メジャー帰りの上原や岩隈じゃ偉大すぎるし、若手じゃ普通に萎縮しちまう。助っ人なら文化の違いで告訴ものだ。日大タックル事件じゃなくて、愛と幻想の中大ゲンコツ事件。まあ正確に言えばパシッてひっぱたいた感じだけど、平成の東京ドームにあの昭和の青春ドラマを成立させたのは、間違いなく澤村の過剰とも言えるキャラと底知れぬスケール感だった。

 もう31歳? いやまだ31じゃねえか。やり直せるよ。2軍で出直しだ。令和の球場で待ってるからさ。じゃあ最後は懐かしい昔の呼び方でお別れしよう。

 筋肉、がんばれよ、筋肉。

 See you baseball freak……

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