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【燃えろ!!デブ野球】あの頃、僕らはみんなデブだった

プロ野球死亡遊戯によるデブ野球選手論。第1回 デーブ大久保「デブは人生を救う」!

偉大なる無駄を愛する人々に贈る『燃えデブ』

 世の中全体のアスリート化が進んでいる。

 効率化と清廉潔白さを求められ、余計な無駄口を叩かずに「人生の贅肉」を削ぎ落とす。筋トレ、ダイエット、ヨガ、動画サービスに音楽配信、未来を選べ、人生を選べ…っていきなり『トレスポ』のパクリみたいな始まり方になってしまったが、この慌ただしい年末に新連載『燃えろ!!デブ野球』のスタートだ。略して『燃えデブ』と言っても脂肪燃焼トレーニングのノウハウを書きたいわけじゃない。要は偉大なる無駄を愛する人々に贈る、グレート・ムダ・コラム。いきなりカミングアウトすると、俺はいまだに好きなバンドの音楽は配信ではなくタワレコの店頭まで出掛けて発売日に買ってるし、まるで昼下がりのお花屋に行く若奥様のようなテンションで秋葉原のエロDVD屋にも立ち寄っている。まあ日常にそのくらいの無駄があってもいいじゃない。腹の贅肉あってもいいじゃない。そう、一昔前のプロ野球選手のように…という連載である。

巨人移籍後、肥満児に夢を与えてブレイクスルーした『デーブ大久保』

 子どもの頃、テレビで見るプロ野球選手の腹は普通に弛んでいた。80年代を代表するプレーヤー“オレ流”落合博満も“怪物”江川卓も20代の頃から中年太り体型だった。腹筋バキバキのマッチョ体型の落合や江川なんか想像できない。なにせ当時の少年たちのヒーロー、キン肉マンは赤ん坊時に父親から豚と間違えられて宇宙船から地球へと放り投げられている。あの頃、僕らはみんなデブだった。

 だって、大久保博元のニックネームはそのまんま“デーブ”である。今ならコンプライアンス的にアウトな気もするド直球のあだ名。ちなみに大久保の現役最終年となった95年の選手名鑑を見ると「180cm108kg」とある。参考にチームメイトの元木大介は「180cm76kg」だから、同じ身長にも関らず大久保が32kg重い。だが、この体型を大久保は逆転の発想で自身の最大のセールスポイントとして利用するわけだ。西武時代はドラ1入団も7年間でわずか6本塁打。8年目の92年5月に25歳で巨人へトレード移籍すると、最下位に沈む瀕死のチームで救世主的を活躍を見せる。6月は打率.348、8本塁打の活躍で月間MVPに。そして、ついに週刊ベースボールで表紙を飾り、解説者の中畑清と巻頭カラーで特別対談までしている。

中畑:それは、裏を返すと、自分のセールスポイントが何か、をよくわかっているっていうことだろう。
大久保:そうですね。“肥満児に夢を”っていうか(笑)。これまでさんざん太っているから動きが悪いとか、太っているからピッチャーが投げにくいんじゃないかとか言われてましたからね。それが、結果を出していけば、だんだん言われ方が変わっていくんですよね。マトが大きくて投げやすいとかね。
(『週刊ベースボール』92年8月31日号より)

 まさに自分の体型に対して開き直りブレイクスルーした大久保に対して、巨人はシーズン中に異例とも言える2000万円の臨時ボーナスを贈ることを決定。後半戦開幕の7月24日、東京ドームで保科代表から手渡された金一封。これに対し、年俸1150万円だった大久保は「年俸とボーナスをたすと、僕は3000万円プレーヤーです」なんつって豪快に笑ってみせた。仮にこの時、大久保が新天地でダイエットという行動に出たら、野球人生の成り上がりストーリーは存在しなかっただろう。

ダイエットせず、デーブの生き方を見習おう!

 体重計に乗る暇あったら素振りをかます。「痩せるな、振れ」の精神である。興味深いD.D(デブデータ)を紹介しよう。この10年間のパ・リーグ本塁打王は皆体重100kg近いか超えているという事実。デスパイネ95kg、レアード98kg、中村剛也102kg、メヒア118kg、アブレイユ111kg、T-岡田100kg、山崎武司100kg。みんな公称体重より絶対重い気がする…というのは置いといて、デスパイネは175cm95kgと一般男性なら明らかに太り過ぎ。だが、野球界ではその脂肪がストロングポイントになるわけだ。

 俺らもダイエットしている場合じゃないだろう。デーブ大久保は目上の人を照れずに「オヤジ」と呼び(ちなみにエモヤンのことは「江本先生」)、途中ゴニョゴニョとトラブりながらも、楽天の監督まで務めた。考えてみてほしい。もしもこの男がスレンダーな体型だったら、やることなすことリアルすぎて厭味に感じてしまったはずだ。

 愛は地球を救う? だったらデブは人生を救う。ちなみに16年春から大久保が東京新橋で経営する居酒屋店名は『肉蔵でーぶ』である。

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