かつて大阪球場があった頃、難波のど真ん中でプロ野球が行われていた…

　この場所でノムさんがキャッチャーミットを構え、あの門田がフルスイングをかましたのか。

　先日、極寒の大阪なんばパークス内にある大阪球場跡のモニュメントプレートを見てきた。ここが南海ホークスの本拠地だ…ってどこにあるんだよいったい？　しばらく巨大ショッピングモールの周囲をグルグル徘徊していたら、ようやく雑踏の中にぽつんと佇む銀色のマウンドとホームベースを発見。思わず、右肘手術から復帰した桑田真澄ばりにしゃがんでそっとマウンドを触ってみた。遠目から見たら完全に財布を落として動揺しまくってる不審者である。今から30年前、確かにここ難波のど真ん中でプロ野球が行われていたのだ。俺は往年のトニー・バナザードの気分になって、施設内のハワイアンバーガーショップ「クア・アイナ」のパインバーガーに食らいついた。

　気が付けば、本連載『燃えデブ』で取り上げてきたのはデーブ大久保、門田博光、ブーマーと全員パ・リーグ出身の選手である。今もそうだが、昔からパ・リーグには太目の選手が多い。つまり、個性派が多い。ユルさを許容し、短所を消すより長所（デブ＝パワー）を伸ばす自由な気風があるのだろう。ドカベン香川も南海で活躍したし、その南海がダイエーに身売後に福岡へ移転すると、ブライアン・トラックスラーという相撲レスラーのような助っ人も話題となった。95年の選手名鑑では公称175cm、91kgの豆タンク体型（実際は110kg超え説あり）。髭がトレードマークのぽっちゃりスーパーマリオ的なキャラで“コロコロちゃん”の愛称で親しまれた。

三度の飯よりビール大好きぽっちゃりスーパーマリオ的なキャラクター

　三度の飯よりビール大好き27歳の助っ人スラッガーは当初完全なネタ枠と思われたが、94年開幕のデビュー戦でいきなり一発を含む4安打7打点の大暴れ。背番号39の丸々とした博多人形もバカ売れ、カウボーイスタイルに扮したアニメが福岡ドームのスクリーンに映し出される人気者に。根本陸夫監督の放任主義とも愛称は良く、前半戦はホークス打線を牽引する活躍で、オールスターにも監督推薦で選出された。あのイチローが初出場の20歳9か月で全パの1番を務め、松井秀喜が20歳1か月で全セ4番に指名され新時代の幕開けと語り継がれる94年夢の球宴第1戦で、4番清原和博と6番秋山幸二に挟まれた5番DHトラックスラーもしっかり2安打を放っている。

　後半戦は一発狙いで打撃フォームを崩し、打率.263 15本 62点という平凡な成績で1年目終了。直後に満を持して“世界の王”が福岡へやってくるわけだ。ダイエー王貞治監督の誕生である。当時の王は黄金時代の巨人しか知らないバリバリのセ・リーグ人間。ストイックなトレーニングで前人未到の868本塁打をかっ飛ばしたその目にトラックスラーの自由さは許容できるものではなかった。やがて、超大物のメジャー220発男ケビン・ミッチェル（負けじと体重100kg超え）の獲得で、メジャー通算1安打のトラックスラーは95年開幕を待たずして解雇されることになる。

37歳の若さで急死したトラックスラーは未だに愛すべき存在

　お詫びに「ダイエー球団の少年野球チームの講師」というなんだかよく分からないオファーを断ったコロコロちゃんはアメリカのマイナーや台湾でもプレー。その後指導者として第2の人生を歩んだが、なんと2004年11月に37歳の若さで肝硬変のため急死している。最後まで野球と酒を愛したドラマティックな人生だった。日本球界ではわずか1年のプレー。それでも未だに野球ファンの酒の席で話題になるその愛すべき存在感。摂生なんてクソ食らえ。やりたいようにやる、生きたいように生きてやる。燃えろデブ野球！　

　個人的にガチで嫌なことがあった寒い夜には、熱燗片手にウィキペディアのトラックスラーの人物説明を見るようにしている。今回はその心温まる一文を紹介して終わりにしよう。

『トラックスラーをカタカナ表記にすると長すぎるため、球場によっては電光掲示板で全て表示できず、トラックで終わってしまう球場や、トラクスラーと表示される球場もあった。福岡ドームでは、5月以降「トラック」と表記されていた。その福岡ドームへは自転車で通っていた』

（参考資料）
スポーツニッポン2009年2月1日付『減量してもクビ！？トラックスラー、再就職先は少年野球教室？』

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