ブーマーを知らない子供たちに、その凄さを語ろう

　先日、商業施設“アルデ新大阪”を徘徊しながら、焼き肉でも牛カツでもお好み焼きでもなく、京漬物定食の店に入った。

　東京から新幹線で揺られること2時間半、新大阪駅に着くと身体への負担を考え胃袋に優しい“あっさり飯”の魅力に浮気したのである。ロハスな生活よりロペスの一発に熱狂し、あっさりよりぽっちゃり濃厚な人生を送りたい。そんなコンセプトで始まった本連載『燃えデブ』のはずなのに、大阪球場で門田博光が豪快にホームランをかっ飛ばしたこの地で、俺はヘルシーな京漬物に逃げたのだ。しかも定食（と言うか京漬物御膳）はめちゃくちゃ美味かった。

　「…いやそんなことはマジどうでもいいんで、ブーマーってどれくらい凄かったんですか？」

前回の門田コラムで「ホームランを打った門田が出迎えの巨漢ブーマーとハイタッチして右肩を脱臼」と書いたら、とある打ち合わせで会った26歳の編集マンが真顔でそう質問してきた。80年代中盤、パ・リーグ冬の時代の影響もあり、どうしても同時代のランディ・バース（阪神）やウォーレン・クロマティ（巨人）と比較すると現代の野球ファンへの知名度では若干劣るブーマー。手元の『週刊ベースボール』80’s～90’s助っ人黄金時代特集によると、身長2メートル、体重100kg（恐らく実際は120kg近い）の巨漢スラッガー伝説は、アメリカ時代に放った強烈な打球にビビったアナウンサーが「ブーム・オフ・ザ・バット」と表現して、次の打席から登録名のグレッグ・ウェルズではなく、ブーマー・ウェルズとアナウンスされたことから始まったという。

ちなみに“新人類”で86年流行語大賞の金賞に選ばれた、清原和博の若き日の愛称“キヨマー”もブーマーの活躍から来ているし、90年代にボキャ天を席巻した遅れてきたルーキーことお笑いコンビの“BOOMER”は、ブーマーの背番号44ユニフォーム風の衣装がトレードマークだった。まさにブームを呼ぶ男。一説では安室奈美恵の“アムラー”も語源は元を辿るとブーマーにあるなんて都市伝説も囁かれたほどだ。とどのつまり、昨年末の紅白歌合戦の陰のMVPはある意味ブーマー・ウェルズと言っても過言ではないだろう。信じるか信じないかはあなた次第だが…。

長嶋よりも落合よりもバースよりもすごかったブーマー

　その風貌は見るからに超パワーヒッター。西宮球場の場外へぶち込んだことも数知れず…なんだけど、4000打数以上の通算打率でNPB右打者歴代1位は誰だか知っているだろうか？　なんと長嶋茂雄でも落合博満でもなく、ブーマーの打率.317である。三冠王コンビの落合もブーマーも恐妻家で知られたことから、名打者育成には“怖いカアちゃん”の存在が効果的と日米共通のD.D（デブデータ）がここでも証明された格好だ。

ブルージェイズ、ツインズを経て83年に来日すると日本で10年間活躍し、2年目の84年には「打率.355 37本 130打点」という好成績でバースよりひと足早く外国人選手初の三冠王を獲得。阪急、オリックス、ダイエーの計10年間で4度の打点王と2度の首位打者に輝き、本塁打王こそ84年の1度きりだが40発以上を3シーズンで記録、8度の打率3割をマークしている。ついでに89年の年間34併殺はNPB最多の金字塔でもう30年近く破られていない。なお80年代トータル本塁打数224本はバース202本を抑え外国人選手トップ。38歳でダイエーへ移籍した92年は97打点でタイトルを獲得しながら戦力外となり引退と、最後まで記録にも記憶にも残る大打者だった。

新大阪で京漬物を食べながら、想いを馳せる

　そんなブーマーを一躍有名にしたのが、ロッテ戦で左脇腹に死球を食らい怒ってマウンドに突進したら、突如画面が薬局への駆け込みダッシュに切り替わり、「パ、パ、パスタイム、クダサイッ！」と日本語で叫ぶユートク薬品のテレビCMである。無事、湿布薬のパスタイムを受け取り、阪急ブレーブスの主砲がユニフォーム姿で口にする「ハンキューベリーマッチ」の名言。もちろんサンキューベリーマッチの言葉遊びだが、この関西の遊びの精神は現代の“なんでもあるで”と語呂合わせの商業施設「アルデ大阪」へと受け継がれている。

凄まじく強引な展開だが、そして今日も我々はブーマーに想いを馳せながら新大阪駅で京漬物を頬張るのである。昨今のどこか殺伐としたこんな世の中だからこそ、いつも心にブーマーを。

　みんな、このコラムを最後まで読んでくれて、ハンキューベリーマッチね。

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