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【燃えろ!!デブ野球】第23回 右翼ペゲーロのズンドコ守備にフリオ・ズレータを思い出した東京の夜

燃えデブ第23回は通算145本塁打、通算退場6度のパナマの大砲フリオ・ズレータ!

メイドインジャパンの看板は絶対崩してほしくない、リングサイド解説の蝶野正洋はそう言った。

「全部外向けにインターナショナルにはなりましたけど、メイドインジャパンの看板は絶対崩してほしくない。時代が変わったなっていうのは分かります。新しい時代なんだっていうのは感じます。ただ、そこだけは納得できない」

 リングサイド解説の蝶野正洋はそう言った。まるでメジャーリーグに対するNPBのスタンスを指摘した言葉のようだが、新日本プロレス新社長にオランダ出身のハロルド・ジョージ・メイ氏が就任。9日に開催された『DOMINION 6.9 in OSAKA-JO HALL』では、オカダ・カズチカを破り悲願のIWGPベルト初戴冠を果たしたケニー・オメガを初めとして、IWGPインターコンチネンタル王者をクリス・ジェリコが、IWGPタッグ王者もヤングバックスが初奪取した。もちろんみんなそれぞれ魅力的な素晴らしいレスラーだが、この多国籍王者路線を“海外向け戦略”と感じたファンも多いだろう。

 あらゆるシーンは常に変わり続ける。例えば、安田理央が書いた『AV女優、のち』(角川新書)に登場する元女優たちは全員21世紀初頭の“00年代デビュー組”だ。AV業界が最もパワーを持っていた10年。俺らが必死にエロDVDを見ていた10年。そして、プロレスが暗黒期と呼ばれ苦しんだ10年でもある。数年前はよく「昭和プロレスファンが今のエンタメ路線の新日を楽しめるか?」と話題になったが、これからは「棚橋・中邑時代を見てきたファンが今後の世界戦略を視野に入れた展開についてこれるのか?」という段階に進んだ気がする(偶然にもプロ格の象徴・小川直也も現役引退を表明)。そう言えば、あの頃は「財布の中身を気にせずに好きな昼飯を食える大人になりたかったなあ」なんつって天ぷら海鮮と釜飯の店『米福』でエビ三昧釜飯の香りを楽しみながら、今週も満腹絶倒コラム『燃えデブ』が始まった。

カルロス・ペゲーロを見て、あのパナマの怪人を思い出す。

 現在、プロ野球界は00年代中盤にスタートしたセ・パ交流戦真っ只中だが、先週は東京ドームの巨人vs楽天戦でカルロス・ペゲーロを見た。192cm、119kgの巨漢スラッガーで昨季は26本塁打をマーク。攻撃的2番バッターとして恐れられ、本拠地最長記録の153.1メートルの場外アーチも放っている。ド迫力のスイングに規格外のパワー。意外と速いベースランニング。で、自分が見た試合では右翼守備に就いていたが驚愕の下手さだった。そしてまるで格闘家のような肉体とズンドコ守備を眺めるうちに、あの助っ人のことを思い出したわけだ。ダイエーやロッテで活躍したフリオ・ズレータである。

 197cm、113kgの巨体から凄まじい打球を放ち、04年には37本塁打、100打点。05年も43本塁打、99打点とダイハード打線の中軸として活躍。ズレータ本人は『ベースボールマガジン』の懐かしき外国人助っ人選手特集で日本野球の環境に適応できた理由として「パナマ出身」を理由に挙げている。パナマ運河は様々な国の大きな船が通過していくため、学校では少なくとも4つの言語を勉強させられる。ズレータもスペイン語、ポルトガル語、フランス語、英語ができた。異文化へ適応することでパナマは成り立ってきた。だから、来日したときも他の外国人選手のように周りが英語を喋ることを期待するのではなく、日本の言葉を覚えようと思ったのだという。凄い、スペイン語講座をわずか1か月で挫折した俺も見習いたい。

00年代のズレータと現代のペゲーロ。僕らはいつの時代も彼らに夢を見る

 通算145本塁打、アーチ後の陽気な「パナマウンガー!」パフォーマンスで知られる男だが、6度の退場処分を食らうブルファイターの一面も併せ持つ。04年9月8日にはロッテのセラフィニの頭部付近の投球に激怒。ヘルメットを投げつけ、セラフィニの飛び蹴りもパワーで引きずり倒しほとんどマウントのような態勢でパンチを浴びせ続けた。ちなみにアレックス・ラミレスの著書で触れられていたが、ホームランを放ちパフォーマンスをすると、侮辱されたと勘違いした外国人投手から反感を買いやすくなるのだという。確かに合コンの自己紹介でいきなり「一杯目は…パナマウンガーッ!」をかましても狂ったと思われるだけだろう。

 00年代のズレータと現代のペゲーロ。以前この連載でも取り上げたブーマーやウッズ、さらに現代のバレンティンといつの時代も日本の野球ファンはこの手の大型パワーヒッターに夢を見る。00年代の格闘技ファンもボブ・サップに熱狂した。時に本人すら制御できない潜在能力が爆発したとき、彼らは我々を現実の向こう側へと連れって行ってくれるわけだ。これからプロ野球もプロレスもサッカーもどんどんアスリート化が進むだろう。だからこそ、リアル(競技性)の先にある遊びと余裕。一見無駄なんだけど無駄じゃないことが重要になってくる。

 アメフトのタックル問題とか、どこかのドンファンが死んだとか、なんの切実さもない出来事にスポイルされずに生きるにはどうしたらいいのか? そんなどうしようもないニュースを耳にするたびに、俺は今日も心の中で「チョップ、チョップ、パナマウンガー!」なんて呟き、テレビを消して街へ出るのである。

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