【燃えろ!!デブ野球】第8回「カネも知識も経験もないけど、根拠なき自信と山崎武司のホームランがあった夜」
燃えデブ第8回は、22キロのダイエットで本塁打王に輝いた球界のジャイアンこと山崎武司!
なか卯の豚テキ丼を食べながら、あの頃を振り返る
「今現在ブラブラしている若い人へ言ってあげたいのは、無駄と思える偏狭な趣味ほど後で生きてくるということ」
先日、なか卯で“豚テキ丼”のお供に読んだ掟ポルシェの新刊『男の!ヤバすぎバイト烈伝』の一文だ。基本的にアルバイトに対するスタンスは難しい。お金を貰って働くからには最低限の仕事はしたい、けど長く続けるつもりはないし…みたいなあの攻防戦。その境界線を探る内に世の中の仕組みを学ぶわけだが、若かりし日の掟ポルシェと同じくあらゆる仕事をバックレたボンクラ野郎の最後の砦は、治験バイトというのはいつの時代も変わらない。
俺も大阪で大学生をしていた2000年夏に2泊3日くらいのライトな治験バイトで8万円貰って、シャバに帰ると即その金を握りしめ日本橋のでんでんタウンへ走り、プレステソフトの『ウイニングイレブン2000』とソフト・オン・デマンドの菅原ちえ監督作品『初めてのDeepkiss』(もちろんVHS)を買った。「治験バイトをしてゲームとエロビデオを買う」という文字にするとかなり終わってる感じはするが、恐らく何も始まらせたくなかったんだろう。…なんつって今週もブルージーに『燃えデブ』が始まった。
おっさんボケェ!と星野監督に叫んだ山崎武司
正直、あの頃あった底知れぬ虚無感とわけの分からない怒りも年齢を重ねるごとに薄れてきた。だから、個人的に大人になってもある種の怒りを保ち続けているプロ野球選手を尊敬する。例えば、往年の山崎武司のような選手である。公称身長182cm、体重100kgのジャイアンキャラ。その巨漢とパワーは柔道や相撲で抜群の強さを発揮した幼少時から図抜けており、あの工藤公康やイチローの母校として知られる地元の名門・愛工大名電に進むと高校通算56本塁打を放ち、86年ドラフト2位で中日入り。当初は捕手失格の烙印を押され、自慢の打撃でもプロ8年間で計11本塁打と低迷するが、9年目の95年に66試合で16本塁打を記録。眠れる大砲はようやく1軍定着すると、翌96年ついにその素質と激情が爆発する。
戻ってきた故・星野仙一監督に「体重20キロ落とせ」と指示され、最後はわざと風邪を引いてやつれる無謀なダイエットで110kgから88kgへと絞り迎えた勝負のシーズン、39本塁打を放ち松井秀喜を1本差で抑えホームラン王を獲得してみせたのだ。まさにリアル「燃えろ!デブ野球」。いやどういう意味だよなんて突っ込む間もなく、127試合、打率.322、39本、107打点、OPS1.007でまさに10年目の覚醒である。
「おっさんボケェ! オレを使えば打てるんじゃ!」
90年代後半のある試合でサヨナラホームランを放った山崎はベンチの星野監督に向かってこう叫んだという。山田久志監督時代はその批判めいた試合後コメントに腹を立て、「俺に面と向かって言え。そこからはいつ監督を殴って辞めてやろうか考えていた」なんてキレてみせる。そして「これ以上、中日にいたら傷害事件を起こしてしまうのでトレードに出してくれ」と移籍したオリックスでも伊原春樹監督と衝突して「ボケェ!」なんつって絶叫しながら監督室にバットを投げつけ、そのままGMに「あのバカを解任してください」と訴える驚愕の行動に出て2軍落ち。ゴメン、同じ会社にこんな同僚がいたら面倒くさすぎやろ…と思ってしまう暴れん坊ぶりだ。
中年男性に必要なのものは、山崎武司のホームランだ
だが、最後に拾われた新興球団の楽天で野村克也監督と出会い、キャリア終盤に本塁打を量産することになるのだから人生は分からない。07年には43本塁打、108打点で二冠獲得。09年には41歳で39本、107打点の金字塔。12年には古巣中日に復帰し、翌年45歳でユニフォームを脱いだ。通算403本塁打中、その半数近い196本塁打を35歳過ぎてから放っている遅咲きのスラッガーは、まるで思春期のような怒りを維持したままホームランをかっ飛ばし続けたわけだ。
例えば、公開中の映画『リバーズ・エッジ』を観に行っても、登場する高校生たちに感情移入できず、女優陣が惜しみなく出すおっぱい以外ほとんど見所なく退屈に感じてしまう中年男性に必要なのは、山崎武司のホームランだと思う。怒りを持ち続けるには体力がいる。山崎はその体力を維持したまま45歳まで現役生活を続けた。例によって凄まじい強引さで終わろうとしているが、カネも知識も経験もなくとも、根拠なき自信と体力さえあれば生きていける。いつの時代も、未来を作るのはそんな若者たちである。
(参考資料)
『プロ野球 戦力外通告を受けた男たちの涙』(宝島社)
『男の!ヤバすぎバイト烈伝』(掟ポルシェ/リットーミュージック)
夕刊フジ 2018年1月10日
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