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イージーなムードに流されず、“大竹的なもの”を舐めずに生きようと誓った師走の候【燃えろ!!デブ野球】第47回

燃えデブ第47回は減額制限超えの50%減で契約更改した巨人の大竹寛!

会社の飲み会が面倒くさいと昔は思っていたが、失くしてみて気付くこともある。

 12月、プロ野球がない夜にも慣れてきた。

 というわけで、丸佳浩の巨人移籍発表後はひと息ついてNETFLIXで『ナルコス』のドラマシリーズを見まくっている。コロンビアやメキシコの麻薬戦争を描いた本シリーズは深夜に軽く1話と見出すと止まらなくて、思いっきり仕事に支障が出る。さらにDAZNではサッカーのチャンピオンズリーグ、ついでに新日本プロレスワールドでオカダと棚橋のタッグをチェックとかやってるともうダメだ。自然と地上波テレビ番組からは遠ざかり世の中の動きに疎くなる。

 フリーランスの弱点は、隣に世間話をする同僚がいないことだと思う。要は上司のおじさんから飲みながら政治の話を聞くこともないし、席が近い同期の女性社員とのランチで最近人気の芸能人スキャンダルを話すケースもなくなる。自分のテリトリー外にいる人とのコミュニケーションは馬鹿にできない。だって、あれは互いに知らない情報交換みたいなものだから。この時期は会社の飲み会が面倒くさい? 気持ちはよく分かる。俺も昔はそうだった。けど、失くしてみて気付くこともある。ライターは原稿が立て込んで部屋に籠ると、1日で飯を注文した際のウーバーイーツの配達員との会話しかないなんてザラだ。あぁ俺も仕事の合間にOLさんと無駄話してぇよなんつってデリバリーの海老天丼をかっ食らいながら今週もウーバーコラム『燃えデブ』が始まった。

 人はいつだって失くしたものはよく見える。ぶっ壊れた人間関係も、過ぎ去った時間も、FAの人的補償選手だってそうだろう。所属球団では伸び悩む若手や中堅が人的補償で移籍する途端、日本代表クラスの超一流選手のように送り出される。これが球界に蔓延る「人的補償になった瞬間に評価爆上げ説」だ。いや冷静になろうぜと。人的補償の選手はシビアに見ると「28名のプロテクトに入れなかった」けど、「相手チームに1番目に選ばれた」ってことになる。つまり、今のチームにはそこまで評価されてないが、外から見れば光るモノがある選手だ。ドラフトにも外国人選手にも当たり外れがあるように、当然FA補強や人的補償もピンキリだ。例えば、巨人から広島へ移籍した一岡竜司は人的補償史上に残る成功例だろう。巨人時代はプロ2年で13試合の登板だったのが、カープでは5年間で計214試合に投げまくり、ブルペンの中心として活躍。見事にステップアップに成功した。

色々と叩かれることも多い大竹寛だが、5年間で計23勝21敗って、そこまでディスられるような数字だろうか?

 で、今回のコラムのテーマは大竹寛である。13年オフに巨人へFA移籍した大竹だが、同時に人的補償の一岡が大活躍したことで色々と叩かれることも多い。けど、イチFA選手として見ると、巨人入団後の5年間で計23勝21敗って、元エース内海哲也のこの5シーズン計25勝28敗とほとんど変わらない。今季限りで引退した杉内俊哉も近年は故障でほとんど投げることすらできず、この5年間で計16勝12敗。年俸はピーク時で杉内5億円、内海4億円、大竹だけ1億円だ。あれっ……考えれば考えるほど、これってそこまでディスられるような数字だろうか? 大絶賛とまではいかないが、投資額を考えればまあボチボチの補強だったと思う。あくまで一岡と大竹は別腹だ。だってそこは自分でコントロールできることじゃないじゃん。君が転職した後に獲った人材が優秀でねぇって、知らんがなそんなこと。大竹を叩くなら、数倍の高年俸を貰っていた他の選手はどうなのよとなる。あいつなら叩いていい的なイージーなムードには流されず距離を置き、大竹寛と向き合えばまた違う側面が見えてくる。

 184cm、94kg。原監督から「スープは全部飲むなよ」と注意されるほどのラーメン好きで、あの突っ込まれやすいお腹と朴訥とした風貌。巨人公式のLINEスタンプも半笑いのスケベ顔のイラストに文字は「まいったな~」なんて一人ギャグ枠のような扱いだ。登場曲のKAN『愛は勝つ』もガチなのかギャグなのかいまいち分からない。35歳の今季は1軍でわずか1勝に終わったものの、2軍のローテをしっかり守り9勝を挙げイースタン4連覇に貢献。川相元2軍監督からもその献身的な姿勢を絶賛されている。恐らく、これが生え抜きの功労者なら1軍でのチャンスの数も違っていただろう。FA選手は入るときは歓迎されるが、結果が出なくなると真っ先にポジションを失う立場だ。もし、あなたが大竹だったら、腐らずジャイアンツ球場のマウンドへ上がれていただろうか。俺にはその自信がない。

人的補償で泣かされた男が最後は人的補償で笑う……なんて展開になったら痛快だ。

 先日の契約更改では減額制限超えの50%減、2625万円ダウンの年俸2625万円というこれもギャグなのかガチなのか分からない早口言葉みたいな大減俸を食らっている。元カープの浦和学院出身と来れば、広島OBの江藤智や浦学OB清水隆行といった巨人の先輩たちは最後は西武で現役生活を終わらせた。仮に丸や炭谷の人的補償で即戦力を求めるどちらかのチームに背番号17がチョイスされて、巨人相手に快投して、球場でプロデュースラーメンが発売されたら。人的補償で泣かされた男が最後は人的補償で笑う……なんて展開になったら痛快だ。

 みんなよく「若手を守れ」と言う。誰も「ベテランを守れ」とは言わない。でも、実際のプロテクトリストは「未来」じゃなく「今」を守る。そこにズレが生じてFA補強は議論を生むのである。で、ラーメン大竹みたいな分かりやすいストロングポイントを持たないキャラは損をする。大竹は現在97勝99敗17S、防御率3.80。なにげに通算100勝まであと3勝だ。現代野球で100勝は凄いよ。阪神のメッセンジャーが95勝、中日の吉見でさえ88勝だ。V3末期の巨人はこのレベルのベテラン投手がローテ5番手あたりにいたから強かった。だから今度は岩隈久志や金子千尋を……ってなんでやねん。

 とりあえず、俺は“大竹寛的なもの”を舐めないで生きていきたい。例え人生6勝6敗でも、コツコツと100勝を達成するような、隣に話し相手がいるような平穏な日常を舐めずに生きていたいのである。
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