野球ファンには「FA移籍はロジカルよりも感情なのか?」と西武・炭谷を見て考えた夜【燃えろ!!デブ野球】第45回
燃えデブ第45回は海外FA権行使で注目される埼玉西武の炭谷銀仁朗!
良くも悪くもみんな知ってるポップスターより、誰もが3分間なら有名になれるインスタントスターの時代だ。
幸せって何だろうか?
いきなり凄まじい始まり方だが、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。故フレディ・マーキュリーの人生を描いた本作は大ヒットを飛ばしているが、話題のライヴエイドの熱唱シーンは最初に撮影されたという。数年前のサマソニでフレディのいないQUEENを「今さらかよ」とか文句言いつつ観に行ったらメチャクチャ良くて、今回の映画も軽い気持ちで行ったら度肝を抜かれ、最近は仕事場で『オペラ座の夜』や『華麗なるレース』を流し続けている。仮に今の世界でライヴエイド的なチャリティーコンサートがあったとして、世界中の多くの人間が肩を組んで歌えるロックバンドなんて存在するだろうか? そういうスタンダードな大衆性を持ったバンドはOasisが最後だった気がする。そう言えば、ここ10年でセクシー女優のレベルは急激に上がったけど、往年の飯島愛的な男子高校生の9割が知ってるみたいな有名女優は絶滅したし、プロレスラーも長州力や天龍の知名度は2018年の新日トップレスラーを上回っている。
良くも悪くもみんな知ってるポップスターより、誰もが3分間なら有名になれるインスタントスターの時代だ。だから、このご時世に超有名なQUEENの音楽が大音量で流れる『ボヘミアン・ラプソディ』は古すぎて新しいのである。今週、ザ・ヴァクシーンズというイギリスのバンドが来日するのでライブに行こうと思ってるが、恐らくこのコラムの読者でヴァクシーンズに興味がある人はほとんどいないと思う。そう言う俺も、以前とある若手女性歌手の関係者にライブに招待してもらったら横浜アリーナが満員だったが、恥ずかしながらそのアーティストの名前を当日まで知らなかった。ジャンルの細分化は音楽やAV業界だけじゃない。書籍だってそうだろう。誰もが読んでるベストセラーみたいな概念は終わった。紙で読む人、もはや電子書籍でしか買わない人、っていうかスマホしか必要としない人。けど、いまだに俺は近所のたこ焼きを頬ばりながら紙の雑誌を読んでる時間に幸せを感じるんだよな……なんつって今週もボヘミアンコラム『燃えデブ』が始まった。
巨人のプロテクトは25名でファイナルアンサー。ベストとは言わないけど、そのあたりがベターだと思う。
それで、プロ野球選手にとっての幸せって何だろうね? ひとつの球団でキャリアを終えるのがいいのか、少しでも条件のいい球団へ移籍するのか、それとも夢を追ってメジャーリーグを目指すのか。日本シリーズも日米野球も終わり、現在ストーブリーグ真っ只中。FA選手の動向が連日ニュースになっている。先日、飲みながら巨人の人的補償28名プロテクトリスト予想で盛り上がっていたら、誰かが「でもさあ、冷静に見て28人のプロテクトに苦労するような層の厚い球団ならこんなに優勝から遠ざからないよね」と呟いた。いやそれを言ったらお終いよである。合コンの帰りに「でもさあ、相手に西野七瀬いなかったじゃん」とクールに言う奴はアホである。だって、贔屓チームに対する思い入れを抜きにフラットにリストを作ったら、現行のプロテクト28名はどう考えても多すぎだろう。60数人の支配下選手の内、これじゃあめぼしい選手はほぼ完全に守れちまう。といっても23名じゃ獲る側が躊躇して移籍市場が停滞しそうだから、プロテクト25名でファイナルアンサー。ベストとは言わないけど、そのあたりがベターだと思う。
そこで、埼玉西武ライオンズの炭谷銀仁朗である。この31歳の捕手に巨人が獲得に乗り出し、原監督もラブコールを送っている。西武残留か、巨人移籍か揺れる元日本代表捕手。今季48試合で打率.248、0本塁打、9打点。森友哉に正捕手の座を奪われ、経験値と守備面には定評があるが、キャリア通算打率.212。ちなみに小林誠司は通算打率.215だ。確かに小林の打撃面は致命的に弱い。だが、2歳差の同タイプの捕手を3年6億円とも報じられる好条件で獲得するのは謎である。まだ、来季2年目の大城卓三の打撃に期待して起用するなら分かるが、「打てない捕手」同士でポジジョンを争わせてどうするというのだろうか? 小林・大城・保険の阿部じゃダメなのか? 巨人ファンでも「すべての補強ポイントに合致する丸の獲得は分かる。けど、炭谷は……」という反応が多い。
日本のプロ野球ファンはFAを嫌いな人が多いが、もっとイージーに移籍できる球界になってほしい。
一方で別の見方で、30代社会人として考えると切ない。炭谷はプロ13年も西武でプレー、チームに貢献してFA移籍しようとすると「なんでやねん」「いらない」と突っ込まれてしまうリアル。もし自分が転職する際に、次の会社で「なんであんな奴獲るんだ」とか言われたらヘコむ。日本のプロ野球ファンはFAを嫌いな人が多い。っていうか全世界のスポーツファンは基本的に生え抜きが好きだ。さらに言うなら若手が大好きだ。これは何が正しい間違ってるじゃなく、好き嫌いの問題だから厄介だ。ロジカルじゃなく感情。だから、やたらとFAが重くなっちまう。感情は重いよ。移籍したら下手したら裏切り者や悪者だ。そんなの転職活動する選手からしたらたまったもんじゃない。炭谷に限らず、もっとイージーに移籍できる球界になってほしい。
93年オフに導入されたプロ野球FA制度。その年の春に発売されたのが初のデジタル方式(PDC)携帯電話デジタルムーバである。不思議なもので、95年の野茂英雄の渡米後、俺らはスーパースターのメジャー移籍は簡単に受け入れた。その一方で、FAに対しての価値観は昔とほとんど変わっていない。携帯電話はスマホになった。けど、FAの概念は25年前のままだ。
俺は誰に何を言われようがケータイの機種変更をするように、軽くFA移籍をできる奴でいたい。
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