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内海哲也の西武移籍で「あの頃のハングリーさ」を思い出した夜【燃えろ!!デブ野球】第50回

燃えデブ第50回は人的補償で西武移籍が決まった通算133勝左腕の内海哲也!

いまの時代に重要なのは柔軟性。ウィットとロジカルの狭間を歩くことが新時代のおっさんには求められるわけだ。

 大人になると欲望がリアルになってくる。

 社会人になりたての頃は「将来の目標は年収1000万円越えっす!」なんて無邪気に思っていたのが、やがて「マックのポテトで腹膨らますよりもモスバーガーで1000円越えのセットを食べたい」とか「疲れている日は新幹線で迷わずグリーン席を買える状態でいたい」みたいな夢じゃなく現実的な目標になってくる。ついでに若い頃は「超モテたい」とぼんやりとしていた悩みも「耳の後ろからの加齢臭がメジャー級」とか「髪の毛がFA宣言してまた抜けた」なんてやたらと切実になっちまう。リアルな日々を生きる。それが大人になるということだ。

 今の30代は、パワハラやモラハラがバリバリだった時代に社会人になった最後の世代だと思う。特に制作系の仕事は「辞めろ」「帰れ」は当たり前、休みもなくて当たり前、ブラック企業のドス黒さを競うみたいなあの戦いの日々。だから、いざ自分に何らかの肩書きがついて、上の立場になると若手社員の叱り方が難しい。だって、俺らの先輩は無茶苦茶だったから怒り方も学んでないし……同年代と忘年会をやっているとよくそんな話になる。サッカー界の名将“スペシャル・ワン”モウリーニョ監督も、若い選手と全く価値観が合わず成績不振でマンUから解任されてしまった。いまや重要なのは実績や頑固さよりも柔軟性。ウィットとロジカルの狭間を歩くことが新時代のおっさんには求められるわけだ。なんつって、恵比寿の片隅でモヒート片手に昔の野球カードを肴に語り合いながら、今週もリアリズムコラム『燃えデブ』が始まった。

82年生まれの内海の世代ってギリ昭和の雰囲気が残っていた球界(というか社会)を体験した最後の世代だろう

 忘年会でも話題に上がったのが、やっぱり内海哲也だ。FA炭谷銀仁朗の人的補償により、巨人から西武へ移籍することが発表された元エース。そんな通算133勝サウスポーも来年4月で37歳になる。プロ野球選手と同時に同世代の男として、巨人ファン以外の人もみんな熱く語っていた。俺もその発表があった深夜にやるなら今しかねぇとNumberWebで『みんなで作り上げたつなぎのエース』というコラムを書いた。

 で、82年生まれの内海の世代って、まだギリ昭和の雰囲気が残っていた平成中盤の球界(というか社会)を体験した最後の世代だろう。だって、内海がプロ入りした時って巨人にはまだ清原や桑田や工藤がいたんだよ。偶然にも当時のKKコンビはちょうど今の内海とほぼ同じ年齢だ。あの頃のベテラン選手には一種のプライドと威圧感があった。例えば、仮に当時の清原が人的補償で移籍することになったら、球団事務所に乗り込んでブチギレていたんじゃないだろうか。でも、今の内海は謙虚だ。豪快さより謙虚さが求められる現代、球界の変わり目をサバイバルしてきた新たなベテラン選手像という感じがする。だから、同じく若い頃と激変した社会常識に戸惑う男たちは反応したんだと思う。

「でもさあ、15年必死こいて働いて、30代後半に会社からハイサヨウナラってあんまりだよな。その直後に西武のユニフォーム姿で会見できる内海は大人だよ」と怒る友人もいれば、「これだけ移籍が当たり前になった時代、巨人一筋の内海にとって違う環境を体験できるのは将来的に確実にプラスでしょ。転職経験のない上司より、色々見てきたボスの方が信頼できそうじゃん」なんてクールな意見もあった。個人的には正直に書けば、近年の内海を見ていると“現代にひとつの球団でプレーし続ける難しさ”も感じていたのは事実だ。

個人的には、内海には「巨人を見返してやるぞコノヤロー」と新天地で投げる姿を見せてほしい。

 功労者かつ後輩から慕われる人格者で尊敬される存在、球場の雰囲気やマスコミの論調も一昔前と比べたらやさしい。だからこそ気が付けば遠慮とヌルさも背中合わせ。今でもはっきりと覚えているが、2015年8月12日のDeNA戦。シーズン初勝利を懸けて先発して6回途中4失点でマウンドを降りた背番号26は、驚いたことに試合後のヒーローインタビューに呼ばれた。東京ドームの客席で驚愕しちゃったよ。おいおいさすがにそれはねぇだろうって。これが大竹や野上の移籍組ならお立ち台に上がった瞬間、ブーイングを浴びたはずだ。だって、当時の内海は「年俸4億円で前年7勝、その年は8月にようやく初勝利、4失点でお立ち台」だよ。仮にFA移籍選手なら猛烈にディスられてるし、助っ人選手ならあっさりクビだと思う。“優しさ”と“同情”は似ているようで全然違う。プロは同情されたら終わりが近い。生え抜き功労選手を取り巻く一種の「ヌルさ」。この手のヌルさは、選手自身をスポイルしちまう。その先に待ってるのは、もはや現役引退しかないんだよ。

 だから、俺は今回の内海のことを可哀相とかそういう風には書きたくない。V3時代を支えた元エース、もちろんその実績はリスペクトしている。けど、やっぱり「いつか戻りたい」じゃなく「巨人を見返してやるぞコノヤロー」と新天地で投げる姿を見せてほしい。だって、その若手時代のようなハングリーさって近年の内海哲也に最も足りないものだったと思うから。移籍を繰り返した工藤公康は、37歳シーズンから引退までに計50勝を積み重ねている。こんなところで終わってたまるかよ。頑張れ、新背番号27。所沢まで観に行くからさ。

 ……いやそう言う俺らも、日常のハングリーさが徐々に薄れてねぇか。これはヤバイぞと脂肪燃焼よりも人生を完全燃焼したいと書き続けた本連載もこの今年ラストコラムで50回目だ。全然関係ないけど、来年度の仕事場のカレンダーは華村あすかを買った。いやなんだその情報。とりあえずメリークリスマス。

 回り続けよう。ハングリーでいつづけよう。この世界にスポイルされないために。2019年も『燃えデブ』をどうぞよろしく。

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