「長野久義のオープンキッチン化」で今年もプロ野球が始まった【燃えろ!!デブ野球】第52回
燃えデブ第52回は人的補償での広島カープ移籍が決まった元巨人の長野久義!
チームトップクラスのグッズ売上げを誇るサカチョーコンビはジャイアンツサンドのハムとチーズみたいなもんだ。
このハムとチーズ、どちらかがなくなるようなもんだよな。
東京ドームホテルの喫茶店でサンドウイッチを食いながら、そんなことを考えた。味気ねぇよそりゃあ。ここに来る前に、ドームのグッズショップで、『ありがとう長野久義』コーナーを見てきた。人的補償でのカープ移籍が決まった数日後、なんと店のど真ん中の棚をひとつ全部使って展開という異例のチョーさんぶっこみ。退団・引退選手や背番号変更選手は、通常別コーナーでまとめてセール販売されるケースが多いが、長野の場合は特別枠で値引きも一切されていない。それでも、片っ端から背番号7グッズをカゴにいれるファンの姿も目立った。
タオルやTシャツといった定番モノから、ティッシュケースやモバイルバッテリーや鉛筆まで。長野グッズはこんなに種類があったのかと驚かされる。恐らく、坂本勇人に次いでチームトップクラスのグッズ売上げだと思う。サカチョーコンビの営業的貢献度はそれだけデカかったのである。ジャイアンツサンドのハムとチーズみたいなもんだ。さて、これだけの商品展開していた選手が突然抜ける。となると、この空いた枠を誰が奪うのか? プロ野球は実力世界であり、人気商売でもある。グッズ界におけるポスト長野争いの行方はいかに……なんつって、東京ドームホテルの喫茶店でハム&チーズのサンドウイッチをコーラで流し込みながら今週もガーデンテラスコラム『燃えデブ』が始まった。
それにしても、これだけの球場人気を誇った選手をプロテクトせずにあっさり出してしまう。企業で言えば、イメージダウン必至。だって、自社の看板商品を軽く扱ってるってことだから。チームを変えたいのはよく分かる、けど壊し方と手順をミスると炎上する。近年の巨人はこの手のイメージ戦略が本当にド下手だ(と言うか、昔はどんなやり方でも死ぬほど人気があったのも事実だが)。同時に、“読売ジャイアンツ”ではなく“長野久義”というイチ野球選手の立場で、今回の移籍を捉えるとまた違った側面が見えてくる。
「長野は2019年シーズン限りで突然の引退」と、5年前に将来のチームの空想コラムを書いた。
実は5年前に『2024年の巨人軍』という将来のチームの空想コラム(『プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき』収録)を書いた。そこにこんな一文がある。「長野は『憧れの巨人で10年間プレーできて幸せでした』と2019年シーズン限りで突然の引退」と。何も適当に書いたわけじゃなく、当時の右膝を手術する前の背番号7はレギュラーでいられなくなったら、あっさり辞めるんじゃないかと思わせる得体の知れないオーラがあった。知り合いの新聞記者から「長野さんはめちゃくちゃいい人です。でも、何を考えているか全然読めない」と度々聞いたのもこの頃の話だ。
こういうことを言うと、熱心な長野ファンから怒られるかもしれない。でも、あのまま巨人でプレーしていたら、19年シーズンは原監督が明言しているように「外野は2年連続MVPの丸、復活を期待する陽、ゲレーロ」を基本ベースで起用することが予想されたので出場機会は激減、あと2~3年で徐々に……という立ち位置になりつつあったのは事実だ。それが、今回の人的補償の件で評価も爆上げ、野球選手としてもう一度ドーンとハネた。大きな波が来たわけだ。その大人の対応や落ち着いた発言の数々で、人格者であることが多くの野球ファンに知られたことだろう。東スポ掲載の「なぜカープはあんなに強いのか、ずっと知りたかった。中に入ればきっとそれが分かるでしょう。新しい野球を勉強できるのは、本当に楽しみです」というコメントは素晴らしかった。
正直、多くの巨人ファンが近年の背番号7に感じていたもどかしさの一因に、「何も見えてこない」というのがあった。選手としてのテーマとか、ライバルストーリーとか、感情とか……いまいちボンヤリしてるあの感じ。意図的に本人がそういう意志表示は避けている側面もあっただろう。もちろん、チームメイトや熱心なファンや夜の街のオネエちゃんたちは“超ナイスガイ”の素顔は分かっていたと思う。でも、普通の野球ファンには長野という選手は色々と見えてこない存在だったわけだ。それが、皮肉にも今回の移籍騒動で“人間・長野久義”がハッキリと見えた。優勝時の日刊スポーツ優勝手記で「自分は角(かど)で生きていこうと決めた」なんてシリアスに書いた男が、ストーブリーグのど真ん中で注目されることになったわけだから(ただ絶妙の間で海外自主トレ中というのも、またらしい)。
2019年の球界の見所のひとつは、“赤ヘル長野久義のオープンキッチン化”だと思う。
「今の時代はオープンキッチンみたいなものッスよ」
いつだったかプロレスラーの長州力は自身のトークショーでそう言った。お客に厨房を見せちゃって、その上でたくさんの料理の中から選んでもらう。昔のエンタメは怪しい定食屋みたいなもので、中で誰が作っているのかすら分からない。暗いところから手が出て来て、無愛想にコレ食えってね。けど、現代の球場に求められてるものってミステリアスさじゃなく、一種の分かりやすさじゃん(だから逆説的にプロテクトリストネタが異質のイベントとして盛り上がるわけだが)。若手選手のSNS発信とか、TBS『ジョブチューン』のプロ野球選手の愛車や高級腕時計的な、良くも悪くも選手のキャラを見えやすくするみたいなさ。密室で作ったハム&チーズのサンドウイッチじゃなく、材料の仕入れや調理の過程もファンに見せちゃう。2019年の球界の見所のひとつは、“赤ヘル長野久義のオープンキッチン化”だと思う。
さて、プロ10年目の節目のシーズン。今年12月で35歳、野球選手としてもう一花咲かせられる最後の年齢でもある。長嶋茂雄は35歳シーズンで前年の打率.269から打率.320まで引き上げ、自身最後の首位打者に輝いている。20代で色々経験して、40代より身体もまだ動く。
35歳、男が再出発切るにはちょうどいい年齢だよね。広島風に言えば心身ともに「弾はまだ残っとるがよう」という状態だ。カープの新背番号5。東京と広島を舞台にした、平成最後の仁義なき戦いの主役のひとりは、間違いなくこの男である。
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