代打を送られたビヤヌエバに見た「たかが1年、されど1年」【燃えろ!!デブ野球】第64回
燃えデブ第64回は巨人入りした昨季メジャー20発男クリスチャン・ビヤヌエバ!
何かの業界とか会社とか学校とか、そこは世界のすべてではなく、ほんの一部にすぎない。
えっ、たったの2ページ?
ファイナルカウントダウン真っ只中、書店でも平成総括本が増えてきた。懲りずに片っ端から買うわけだが、例えば“なるほど知図帳”シリーズ『平成本』(昭文社)は全128Pオールカラーであらゆるジャンルの31年間を振り返っているが、その中で野球はたったの2ページにまとめられている。128分の2。世界のほんの一部だ。俺の日常の中心はプロ野球だからこそ、この現実は忘れないでいたい。全然関係ないけど、例えおネエちゃんにフラレようが嫁に逃げられようが、それは世の中の女性のほんの一部という事実も常に心のどこかに置いておこう。絶望はほんの少しの希望の予兆で回避できる。
平成とは、細分化の時代だったと思う。ネットやSNSで無数の小さなサークルができて、一見その中にいると爆発的に盛り上がっているように錯覚する。でも、一歩外に出ると社会では意外と知られていないケースが多い。正直に書くと、個人的にオカダ・カズチカの結婚相手の三森すずこを知らなかった。逆に声優ファンからしたら、オカダって誰? アキノブ?(そんなわけない)って感じだろう。ちなみに三森さんのTwitterフォロワー数を確認したら「1,180,428」、オカダは「283,597」。なんと現代の日本プロレス界のトップスターより、みもりんは4倍以上のフォロワー数だ。
チケットは売れているし一部ではブームとか言われてるけど、オカダですら世間的にはほとんど無名なんだなと我々プロレスファンは気付かされる。まあこの感覚は嫌いじゃない。何かの業界とか会社とか学校とか、そこは世界のすべてではなく、ほんの一部にすぎない。だから、嫌になったら一息ついて外の世界に出て美味いものでも食ったらいいよ……なんつって、今週も新宿歌舞伎町の『京ちゃばや』でお好み焼きイカ玉(モッツレラチーズトッピング)を頬ばりながらヘイセイコラム『燃えデブ』が始まった。
代打を送られたのは、ナ・リーグ月間最優秀新人選手に選出されたこともある「6番三塁ビヤヌエバ」
だから、俺は今日も東京ドームへ行く。SNSで盛り上がっている選手と球場人気の高い選手は必ずしもイコールじゃないから。雑誌や新聞で原稿を書く場合は、あまりネットの声に寄せすぎるとヤケドする。ドームで今、最も大きな声援を受ける巨人選手は丸でも岡本でもなく、圧倒的に阿部慎之助だ。阿部は長嶋監督時代の2001年にプロのキャリアをスタートさせている。まだ巨人戦地上波中継が当たり前の時代を通った最後のジャイアンツバブル世代。12日のヤクルト戦でも、5回に早くも背番号10が代打で登場するとスタンドは爆発的な歓声と拍手に包まれた。さらにしっかりタイムリーを放ってみせる仕事人ぶり。……なんだけど、ドラマには表と裏がある。この時、代打を送られたのは「6番三塁ビヤヌエバ」だった。
今季から巨人にやってきた27歳の若き新助っ人。顔はプラレスラーのTAKAみちのくにクリソツのビヤ砲は推定年俸2億2500万円。これはNPBのチームによっては球団最高年俸に値する現役バリバリのメジャーリーガーだ。昨季はパドレスでメジャー20本塁打。4月に打率.321、8本塁打、19打点でナ・リーグ月間最優秀新人選手に選出された(同月のア・リーグ最優秀新人は大谷翔平)。秋にサンスポが「阪神助っ人急浮上! 矢野虎のメジャー4番 ビヤヌエバ急浮上」とぶっこんだ大物である。それが、開幕一軍からは外れ、さあ東京での新生活スタートと思ったら、いきなりの代打を送られる屈辱。入社3日目に隣のデスクの上司から花瓶の水ぶっかけられるような修羅場。ボス、マジかよ……と思ったら翌13日は3安打の猛打賞。14日もレフトスタンドへ特大の3号2ラン。原監督から対左投手の強さを評価されての5番起用だった。開幕2週間経過して打率.324、3本、4打点、OPS.1.024。得点圏打率.000……いやそれは載せちゃダメなやつ。三塁守備はチーム屈指の安定度と激しい外国人枠争いでサバイバルし続けている。
何の職業でも、良くも悪くも1年あれば人生は変わる。365日という時間を舐めてはいけない。
凄い野球人生だなと思う。わずか1年前は大谷とともにアメリカで次代のニュースターを期待された男が、今は東京ドームで代打を送られているわけだから。何の職業でも、良くも悪くも1年あれば人生は変わる。365日という時間を舐めてはいけない。よく新入社員へのメッセージで「将来のビジョンが……」とか語るおじさんがいるが何言ってんねんと思う。だって、自分が20代の頃、目の前の今この瞬間がすべてだったからね。将来よりも来年だよ。いや来年どころか来週の自分だって分かりやしないんだから。ビヤヌエバだってそうだろう。目の前の1試合勝負を積み重ねていく。This is プロ野球選手。冷蔵庫からライフで1年前に買った消費期限切れの豚の角煮パックが出てきた俺とは全然違うぜ。
1年後のビヤ砲も誰にも予想できない。5番打者で覚醒して、マイコラスのようにメジャーで大活躍しているかもしれない。たかが1年、されど1年。たかが選手が。あ、それはナベツネさん。たかが日常、されど日常。だからこそ些細な時間の積み重ねを舐めたらダメだ。重要な仕事で突然代打を出されようが、翌日は果敢に猛打賞を狙えばいい。ペナントは長い。ついでに先のことは分からねぇ。25歳でも45歳でもいくつになっても、将来よりも、来週だ。現実から目を逸らして曖昧な未来に逃げるのは簡単だからね。プロ野球の助っ人選手と同じで毎日が勝負。徹底的に今生きる。俺らはそんなビヤヌエバのようなシリアスな人生を生きられるだろうか?
とりあえず勇気を出して、この豚の角煮パックを食うところから始めようと思う。
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