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プロ野球開幕前夜! 春にしてゲレーロを想う【燃えろ!!デブ野球】第62回

燃えデブ第62回は勝負のシーズンを迎える元本塁打王のアレックス・ゲレーロ!

全体的に狂っていたブラック会社に就職したから、俺は2004年のプロ野球をほとんど見ていない。

 誰の人生にも、プロ野球どころじゃない時期がある。

 人によっては受験かもしれないし、結婚かもしれない。自分の場合は就職の直後だ。毎年、春になるとあの最低な記憶が甦って軽くヘコむ。無知は怖い。今思えば、完全にブラック中小デザイン会社に就職してしまったのだが、何がヤバイのかすらロジカルに指摘できないくらい全体的に狂っていた。30代前半の先輩の歯がなぜかほとんど抜け落ちていたし、40代中盤のおじさんは激務のあまり風呂に入っていないらしく『ドラゴンボール』の天下一武道会でクリリンと戦ったバクテリアン並に臭かった。ハードコアすぎる環境に新人はすぐ辞めるので社内に同世代の相談できるような相手もいない。スパイダーマン新作『スパイダーバース』じゃないけど、やっぱ不満をワリカンできる同僚って大事だよね。午後2時頃の遅い昼飯も『ゆで太郎』で孤独のグルメ。かと言って会社の郵便ポストに退職願を出してバックレようと毎朝思ったところで、逃げる先は秋葉原のエロDVD屋しかない。カネもノウハウもパイオツもない20代の男は地球上で最も悲惨だと心から思った。

 とりあえず当時は半年勤めれば失業保険がもらえたので、1日の誤差もなく6カ月ちょうどで辞めた。最後の日に初めて夕方6時過ぎの帰りの電車に乗った時の開放感は今でも忘れられない。3月末に社会人になり、毎日終電に乗り気が付けば9月も終わりかけていた。だから、俺は就職した2004年のプロ野球をほとんど見ていない。球界再編はニュース映像としてなんなとなく覚えているが、巨人の史上最強打線とか松中の三冠王とかまったく記憶にない。マジそれどころじゃなかった。過去は美化された嘘である……と散々コラムで書いてきたが、あの頃は今思い出してもクソだった。で、心に誓ったのである。「これからどんな人生を送ろうと、プロ野球ぐらい見る心と時間の余裕は持っていたいな」なんつって、あれから15年後の春、オープン戦観戦の帰りに神保町の居酒屋『酔の助』で焼き鳥とビールで乾杯しながら今週もスプリングコラム『燃えデブ』が始まった。

個人的に2019年最も注目しているアレックス・ゲレーロ。去年はひと言で書けば首脳陣とまったく意思疎通ができていなかった。

 個人的に2019年最も注目しているのは、巨人のアレックス・ゲレーロだ。32歳、182cm、99kgのキューバ出身のパワーヒッター。中日に在籍していた一昨年は35本でセ本塁打王。だが巨人移籍1年目の昨季は82試合で15本塁打に終わった。詳細は伏せるが、去年はひと言で書けば首脳陣とまったく意思疎通ができていなかった。その前のルイス・クルーズのケースもそうだったし、真面目な由伸さんは気分屋外国人選手のコントロールが苦手だった。もちろん世の中に完璧な上司がいないように完璧な監督なんていない。原監督だって、功労者のベテランの扱いがド下手だ。前政権時のラミレスやガッツ小笠原のチームの去り方、今オフも人的補償の長野や内海の軽い扱い方、で最近は上原や阿部への対応を見ているとやはり緊張感が漂っている。ちなみに自身も現役晩年にミスターから、別れ時を探るおネエちゃんみたいなかなりドライな起用法をされていた。これが藤田監督のもとで現役を終えていたらまた違った監督タツノリが見れたことだろう。

 昨年はソロと2ランだけのゲレーロはオープン戦で来日初満塁弾を含む3発を放ったが、開幕スタメンは微妙な情勢だ。外国人枠を争うビヤヌエバのように20代の若さやそれなりの守備力があるわけでもないので、明日に向かって打ちまくるしかない。『ベースボールマガジン』の助っ人特集号で中日の森繁和シニアディレクターがこんなコメントを残している。「ゲレーロは、少なくともウチにいたときはずっとコミニュケーションを取っていた。逆の立場で、もし私がドミニカに一人で行って、周囲が何も話しかけてくれず面倒を見てくれなかったらすごく不安に陥る」と。

で、思い出しちゃったよ。自分が就職したばかりの春のことを。で、感情移入しちゃったよゲレーロに。

 で、思い出しちゃったよ。自分が就職したばかりの春のことを。周囲とは険悪で『ゆで太郎』が唯一の息抜きの絶望的な日々を。追い詰められてできることと言ったら「上司がアホやから仕事ができへん」なんて愚痴ることぐらいだ。で、感情移入しちゃったよゲレーロに。ファンが勝手にストーリーを作って興奮したりガッカリする、ほとんど疑似恋愛的なアレ。これこそプロ野球の醍醐味だ。そう言えば、原監督からオフのメールでの背番号変更打診とか打撃指導が話題になった。重要なのは、ちょっと出足でつまずいたときの首脳陣の対応だ。そこをしくじると夏頃にはクルーズと同じく、ゲレ砲がパ・リーグのどこかの球団でホームランをかっ飛ばすなんて事態になりかねない。

 巨人は坂本、丸、岡本と並ぶ上位打線で、吉川尚輝の成長や陽が復活して、さらにゲレーロが30発打ったらリーグ屈指の攻撃力だと思う。あれっ、これってゲレーロが優勝カギを握ってるんじゃ……。ここで、いやビヤヌエバが打っても同じことでしょなんて突っ込みは野暮だろう。今年は東京ドームでゲレーロの44番のユニフォーム買おうかなとか考えてる自分がいる。野球もアイドルもプロレスもグッズを買うって投票みたいなもんだからね。私はこの選手を応援しますって決意表明みたいな。

 今年もプロ野球が始まる。もし、またあの新社会人の春のように世の中の現実に絶望しかけたら、俺はたぶん一息ついてゲレーロでも見るのだろう。

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