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大エースや横綱に必要なのは「最強幻想」だと松坂から知った春【燃えろ!!デブ野球】第57回

燃えデブ第57回は松坂大輔のハイタッチ騒動から見るSNS時代のファンサービス!

松坂大輔の、あの4月7日の日本ハム戦(東京ドーム)での衝撃の155キロデビューから20年経過というのに普通にビビる。

 最近、山口百恵の曲をよく聴いている。

 と言っても、すでにマジで中年おっさん5秒前の自分ですら生まれた頃に彼女は引退しているので、リアルタイムでは知らない。だが、いいものはいい。iTunesで数曲買っている内にキリがなくてAmazonでCDを買い、『さよならの向う側』を大音量で聴いているとなぜか泣きそうになる。俺は疲れているのだろうか……というわけじゃなく、そこに昭和歌謡曲の完成系とか、絶対に戻らない時間が透けて見えるからだ。で、思う。今の若い人にとって再結成が話題のNUMBER GIRLも完全に平成ロック史の一部なんだろうな……と(いうかもはや存在すら知らない人の方が多いだろう)。

 ナンバーガールのメジャーデビューシングル『透明少女』が発売された99年5月、プロ野球界で話題を集めていたのは西武ライオンズのゴールデンルーキー松坂大輔だ。で、気が付けばあの4月7日の日本ハム戦(東京ドーム)での衝撃の155キロデビューから20年経過というのに普通にビビる。とにかく膨大な月日が流れたのである。「時間」というのは圧倒的な説得力を持つ。億万長者がロケットで月に行けても、タイムマシンで過去や未来に飛ぶことはできないからね。なんつって『上野精養軒』で伝統のポークカツレツを食らいながら今週もデストラクションコラム『燃えデブ』が始まった。

最近のプロスポーツ選手はファンとの距離感が難しい。求められるハードルがどんどん上がってきちゃってるから。

 さて、その松坂だが今季から竜の背番号18を背負いキャンプイン。米国永住権の更新手続きで1泊3日の弾丸スケジュールから戻った数日後、ファンサービスのハイタッチの際に後方に引っ張られるような形になり、古傷の右肩に違和感が生じてしまう。……まるで昭和プロレスのようなアングルだよなと思わなくもないが、すでにチームを離れ極秘帰京して検査を受け、右肩の炎症で名古屋リハビリ生活へ。以前、週刊プレイボーイのインタビューで喋っていたが、松坂はレッドソックス2年目の2008年に慣れない球場の階段で滑って、とっさに手すりに掴まった際に右肩の関節がズレたような痛みを覚えたという。15年夏には右肩手術も経験している(今回の炎症はまた別の箇所らしいが)。つまり、もう10年以上、肩の痛みを抱えているわけだ。

 そんな身体のデリケートゾーンを持ちながら、警備は機能していたのかという論点は別にあるだろうが、最近のプロスポーツ選手はファンとの距離感が難しい。ファンサービスが当たり前になりすぎて、その求められるハードルがどんどん上がってきちゃってるから。先日も雑誌Numberに掲載された元横綱・稀勢の里インタビューの「ツイッターとかSNSを力士がやる意味が全く分からないし、ちゃらちゃらしたところは一切見せるものではない」という発言が話題になった。個人的にはスポーツ選手も芸能人も物書きも「SNSはやらないで成立するならやらない方がいい」と思う。……なんだけど今のスポーツライター界に自分で一切宣伝しなくても新刊が売れまくるなんて書き手は存在しないので、もう仕事の一部と割り切ってやるしかない。だが、黙っていてもメディアで取り上げられる大相撲とかプロ野球のスターはまた事情が異なる。

 第三者を介するからこそ言えることだってあるだろう。例えば、DeNA筒香の少年野球への提言も仮に本人のSNSから直接発信したら、かなり面倒くさい展開になっていたと思う。Twitterは提言と議論がセットでついてくる。それが記者会見ならば、まずは提言して記者がそれを記事にして世に広まる。感情的かつ反射的な反応は回避できるし、ある種大事な何かは守られるわけだ。いつの時代も、4番バッターや大エースや横綱の生命線は一種の“最強幻想”だ。そして、SNSはよほど上手く使わないとその幻想を奪ってしまう。

松坂の魅力はファンが勝手に幻想を膨らませる余地のある過剰なストーリー性、そのプロレス性にあったと思う。

 松坂はメッツ時代に一時期Twitterをやっていたが、しばらくして「パスワードを忘れた」と更新を止めてしまった。彼の魅力はファンが勝手に幻想を膨らませる余地のある過剰なストーリー性、そのプロレス性にあったと思う。いまだ語り継がれる98年夏の甲子園での有名すぎるシーン。前日に250球投げ、準決勝・明徳義塾戦は右手にテーピングを巻きレフトの守備に就く。6点ビハインドの8回裏、味方打線が4点返し2点差に追い上げるとベンチ前には松坂の姿が。そこで、絶対的エースは右腕に巻かれたテーピングを自ら剥ぎ取りマウンドへ。甲子園には大マツザカコールが鳴り響き、勢いに乗った横浜高校は最終回に3点を奪いサヨナラ勝ち。のちにとんねるずの石橋貴明から「あれはカメラ意識したの?」と聞かれ、「その方が盛り上がると思って」と平然と答える、ベテランプロレスラーのような俯瞰の視点を持つ男。

 ルーキーイヤーの99年春季キャンプでは、先輩投手の谷中真二が松坂のユニフォーム姿で現れ人を引き寄せる“影武者作戦”が話題になったことがある(って今ならこれすらも「せっかく見に来たファンがいるのに」なんつって一部から非難されるかもしれない)。その裏で「TANINAKA」の文字が入ったウィンドブレーカーを着たサングラス姿の18歳松坂は無事移動に成功。しつこいようだが、あれから20年経過という事実にビビる。ついでにいまだにその松坂がハイタッチ事件で野球界のトップニュースを飾っている現状にもビビる。今から20年後は、2039年だ。死ぬほど未来という感じがする。吉田君や根尾君が20年後も今と同じように騒がれているだろうか? そう考えると平成の怪物・松坂大輔の凄さを実感する。

 この20年でファンサービスの概念や距離感は大きく変わった。だが、松坂人気は変わっていない。20世紀のスターに21世紀のファンサービスが求められる悲劇。そのズレの中に今回のハイタッチ事件がある。

 平成もじき終わり、松坂やイチローはSNSに消費されない時代を生きた最後のプロ野球選手になるだろう。

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