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プロ野球選手名鑑から知る平成最後のニッポン社会の常識とは?【燃えろ!!デブ野球】第56回

燃えデブ第56回はこの時期恒例「プロ野球選手名鑑」の読み方!

一緒に働く奴の最低限の基本情報はあった方が仕事も当然やりやすい

「こち亀のコミックス61巻の表紙イラストは麻里愛だけど、登場は67巻からで当時けっこう苦情が来たらしいすよ」

 先日、この連載の担当H編集マンと久々に飲んだ。「死亡遊戯さんってスポーツと映画以外に何が書きたいの?」と聞かれたので「平成こち亀論ですかね」なんて即答。ちなみに麻里愛の少年ジャンプ初登場は平成元年の89年秋、個人的にこち亀の全盛期はこの頃の60巻前後から90巻中盤あたりだと思う。ネタとキャラのバランス、ギャグのキレ味、力強い画力と奇跡のようなバランスで成立していたわけだ。

 ってこういう日々の他愛のないやり取りは馬鹿にできない。これまで数多くのWeb媒体で連載してきたが、担当とほとんど会わずにひたすら書き続けていると、その連載は早期終了ケースが多い。何か問題が起きるとお互いに「あ、じゃあ降ります」となりがち。それが、普段からちょくちょく会っていれば、仮にトラブっても「じゃあランチがてら話しましょうか」となる。新入社員の頃、なんで会社のおじさんは飲み会で彼女がいるかとか、出身地がどことか、趣味は?……みたいなどうでもいいことを聞くんだろうと謎だったが、自分が30代後半のおじさん世代になってその気持ちが分かる。だって、一緒に働く奴の最低限の基本情報はあった方が仕事も当然やりやすいからね。なんつって、俺らはプロレスやおネエちゃんのくだらない話をかましながら、浅草橋の炭火焼肉ホルモン『みなみ』で肉を焼いて今週もディスコミュニケーションコラム『燃えデブ』が始まった。

ネットに野球の情報が充実している現代に選手名鑑を買うのは、そこに“人間”が見えるからだ。

 気が付けば、平成最後の『週刊ベースボール』12球団選手写真名鑑号が発売される季節になった。各社の名鑑よりひと足早く出る週ベカラー名鑑。値段も490円と手頃だし、とりあえずこれを片手にキャンプ中継を眺める野球ファンも多いと思う。今は昨季の数字も通算成績もNPB公式ページでいくらでもタダで見れる。これだけネットに野球の情報が充実している現代に人はなぜ選手名鑑を買うのか? なぜなら、そこに“野球選手”だけじゃなく“人間”が見えるからだ。「趣味・特技」とか、「好きな女性のタイプ」とか、モラハラやセクハラの境界線をくぐり抜け、この一見なんだかよく分からないパーソナル情報が、実際に球場で意外に役に立つ。DeNAでは趣味に「Netflix」って答える若手選手がチラホラいるので、同じく最近はNetflixでドラマを見まくっている自分も感情移入してしまう。

 今年も週べ名鑑の「独身者は好きなタレント、理想のタイプ」の質問項目が面白い。高校時代に放課後の教室で、雑誌のどの子がいいか同時に指を指すみたいな20世紀ノスタルジア。死ぬほどベタ。でも、そいつらとちょっと仲良くなれるあの感じ。同じように超人的な能力を持つプロ野球選手も、好きなタレントとか聞くと俺らと同じ人間だと親近感が湧く。巨人・畠世周が「(コナンの)毛利蘭」で、阪神・馬場皐輔が「ミラ・ジョヴォヴィッチ」と伝統の一戦のかまし合いをする中で、中日ルーキー根尾君は「好きなタイプなどは特になし」とあっさり終わらせるキャラ分けも完璧。西武・相内誠の「ムチムチ系の女性」って妙にリアルだ。
 
 と言っても、人気は有村架純、北川景子、広瀬すずらまあ世間の男性とほとんど変わらない面々。ただ、興味深いのが「深田恭子人気」の高さである。オリックス外野手の西浦颯大は理想のタイプに深田恭子を挙げるが、西浦が99年5月生まれの19歳だから、82年生まれの深キョン(懐かしい)は17歳年上になる。同じく99年生まれのソフトバンク育成投手の尾形崇斗も「深田恭子みたいな人」と、恐るべし36歳深キョンの現役バリバリ度。そう言えば、中日の元ドラ1ピッチャー鈴木翔太(95年生まれ)の好きなタレントは22歳年上の「松嶋菜々子」なので、アスリートに姉さん女房が多いのも頷ける。

俺らは人生に必要なことはすべてプロ野球から学んだ。

 俺らは人生に必要なことはすべてプロ野球から学んだ。たぶん、大人になった今も。よくスポーツ新聞で深キョンの写真集が発売される度にビーチのビキニ姿のカットが掲載されていたが、あれはおじさんだけに向けていたわけではないんだな。下は10代から、上はお爺ちゃんまで幅広い年齢層に支持される世界の深田ブランド。で、俺は思ったわけだ。もし、世代が違う人との初対面の打ち合わせとか、タクシーに乗って運転手との会話に困ったら、「深キョン可愛いっすよね」と話せば、なんとか場が持つのではないかと。

 一昔前、毎晩地上波放送していた「巨人戦の結果」が日常会話のひとつだったように、2019年は「深田恭子」がニッポンの男たちの共通ワードとして機能するのだろう。信じるも信じないもあなた次第だ(ちなみに俺はあんま信じない)。

 いつの時代も、プロ野球選手名鑑はニッポン社会をサバイバルするバイブルなのである。

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