マツダスタジアムで見た丸佳浩のホームランは完璧なアートだった【燃えろ!!デブ野球】第41回
燃えデブ第41回はカープV3の立役者、驚異のシーズン130四球をマークした丸佳浩!
時間の経過とともに人も変わればプロ野球チームも変わる
人は変わる。
今、この文章はCS観戦でやってきた広島のホテルで書いている。現在、朝の7時だが、なんと健康的に1階の食堂で朝食を腹一杯食べてきた。ついに長年続けた深夜のペヤング、レッドブル、隙あらばガールズバー、朝昼兼の豚骨ラーメンみたいな生活から卒業して、いまや人生において優先すべきは“睡眠”と“食事”だ。寝て食って働く。しかも前夜はマツダスタジアムで由伸ラストゲームを見届けて、夜の街には1秒も行かず、もちろん酒やおネエちゃん的なアレとは一切無縁で、『ダウンタウンなう』と『報道ステーション』のスポーツコーナーを見終えた夜11時には寝た。って完全に出張中の部長のルーティーンじゃねえか……なんつって、ホテル特製の穴子飯をかっ食らいながら今週もモーニングコラム『燃えデブ』が始まった。
そりゃあ、時間の経過とともに人も変わればプロ野球チームも変わるよ。2013年のCSファイナルでは、当時絶頂期の原巨人が、本拠地東京ドームに3位広島を迎え3連勝で一蹴した。それが5年後には3位で乗り込んだ敵地マツダで3連敗だ。永遠に勝ち続けるなんて不可能だし、誰がどう見ても今はカープのターンだろう。13年に32本塁打をかっ飛ばした規格外の打てるキャッチャー阿部慎之助は39歳となり、2018年CSは一塁手として出場したが13打数無安打と沈黙。その阿部の代わりにマスクを被った小林誠司も14打数無安打に終わった。阿部は来季40歳、すでに満身創痍で起用法が非常に難しい。同じように小林も来季30歳だ。16年の打率.204、17年の打率.206と2年連続でリーグ最下位だったが、5年目の今季も打率.219。年齢的に、ここから課題の打撃が飛躍的に向上するのはよほどの奇跡が起こらない限り厳しいと思う。そして、せっかちな原監督はその奇跡を悠長に待つようなことはしないのではないか……。
CS敗退から一夜明け、スポーツ各紙では巨人のFA丸佳浩、炭谷銀仁朗、元メジャー岩隈久志の獲得調査が報じられた。この一気に世界が変わる毎年恒例の風景が個人的には嫌いじゃない。ちなみに2012年に巨人がリーグ優勝した翌日のスポニチ裏一面に踊った見出しは「連覇へ松井獲り」だった。来季補強目玉はゴジラ、日本復帰なら古巣動くが、DeNAや楽天と争奪戦必至。球団首脳は「松井君の決断次第。戻ってくるのであれば巨人に戻ってきてほしい」と願い、「東京ドームが人工芝で手術した両膝に負担がかかることから、一塁を守らせる構想もある」とまで書いている。ここで「マジかよ?」なんて突っ込みは野暮だろう。ストーブリーグはシリアスに向き合った奴の負けだ。
13年からの激動の展開は俺が広島の小学生なら一発でファンになっていると思う
今思えば、能天気で切実さの欠片もないゴジラネタ。それが、いまややたらとリアリティのある補強対象。人も変わればチームも変わる。55番の向こう側に透けて見えるぜニューヨークが。じゃあ現代にその松井クラスの左打ちセンターがいるのかよ? いたよ。どこだよ、丸だよって感じで今季の丸佳浩は打率.306、39本、97打点、OPS.1.096。「シーズン四球数130」は王貞治が上位独占する中、その王と並び史上4位にランクインしている。身長177cm、体重90kgのプロテインを愛する29歳、後輩と食事に行ったらダラダラ連れ回したりせずにサクッと奢って帰る良き兄貴分。仮にこのクラスのスラッガーが国内FA市場に出れば06年オフのガッツ小笠原以来ではないだろうか。
V3カープの象徴でもある背番号9の存在。広島駅近くの書店で丸が表紙を飾る広島アスリートマガジン『ATHLETE』を買ってページをめくっていたら、『丸佳浩とカープの11年』という特集記事が非常に読み応えあった。08年のルーキーイヤー、6月にウエスタントップの打点を叩き出し、高卒1年目の選手としては初の月間MVP受賞。マツダスタジアムが開場した09年のオフには広島市内のトレーニングジムに通うため、一時寮を出てウイークリーマンションで一人暮らし。プロ3年目の10年9月12日巨人戦で1軍デビュー、21日のヤクルト戦でプロ初安打・初打点を記録。4年目には初の規定打席到達と順調なキャリアだが、この間チームはずっとBクラスである。
その流れが変わったのが、前述の2013年だ。丸は29盗塁で初の盗塁王とゴールデン・グラブ賞を獲得、侍ジャパンにも初選出される。丸と菊池涼介のキクマルコンビがレギュラー定着し、カープは16年ぶりのAクラス入り。ファームではルーキー鈴木誠也を育て、前田智徳が現役引退し、その年のドラフト3位指名が田中広輔だった。初のCSでは巨人に三タテを食らったものの、新しいチームのベースは着々と構築されていたわけだ。翌14年には丸は背番号63から9へ代え、初の全試合出場、初の打率3割、ベストナインとゴールデン・グラブ賞のダブル受賞と完全にチームの顔へと成長する。そして、15年オフにエースのマエケンがメジャー移籍するも、黒田博樹と新井貴浩のカープ復帰で役者は揃う。こうして振り返ると、そりゃあファンにはたまらねぇ激動の展開だ。新しい日本一の球場が完成し、若い才能が育ち、レジェンドが帰ってくる。で、リーグV3だからね。俺が広島の小学生なら一発でファンになっていると思う。
CS第3戦で見た丸のライトへの事実上のダメ押し弾は、一瞬自分が巨人ファンであることを忘れる完璧なアートだった
金曜夜にマツダスタジアムで見た丸のホームランは、一瞬自分が巨人ファンであることを忘れる完璧なアートだった。いつの時代も球場観戦の魅力の一つが、内野席から見る夜空に舞う“ホームランの弾道”だと思う。一塁側から見る右打者のレフトスタンドへの芸術的打球、三塁側から見る左打者のライト方向へかっ飛ばすビューティフルアーチ。2018年、球場観戦でのマイベストホームランは宇都宮の巨人vs.広島戦で見た岡本和真のレフトへの一発、そしてCS第3戦で見た丸のライトへの事実上のダメ押し弾だった。
まあ普通に考えたら、丸が今の広島を出るメリットはほとんどないが、マツダの男子トイレ待ちの列では「もみじ銀行とのCM延長契約がまだらしいで」「奥さんも千葉出身じゃけん」とナチュラルに語られるくらい丸の去就は注目されている。ここでは書けないが、飯を食いながら現地メディアしか持っていない興味深い話もいくつか聞いた。自分が東京にいる時は「絶対ないでしょ」と思ってたら、意外と広島に来たら「多分ないけど、絶対って感じてもないんだな……」という印象だ。
もしかしたら、巨人がFA権保有の丸を獲得調査というニュースに、またかよと呆れた野球ファンは多いかもしれない。けど、近年の巨人に最も足りなかったのは、この手の一種のベタさである。変化球じゃなく、ド直球の補強。“ベタ”さとは、“王道”とも言い換えられる。そして「恋人・丸へ直電ジャイアンツ愛フォン 背番号8を提示」みたいなベタすぎる展開を平気な顔してかませるのが名将・原辰徳の怖さである。
ベタタツノリじゃなくて、原辰徳。ついに球界で最もベタさを恐れない男が、巨人再建に踏み出そうとしている。
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