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「ノスタルジーより今を追うこと」の大切さを橋本到から知った夜【燃えろ!!デブ野球】第54回

燃えデブ第54回は巨人から楽天への金銭トレードでプロ11年目のリスタートを切る橋本到!

河原に落ちてるエロ本に興奮した最後の世代。映画、音楽、アイドル、プロレス、野球…かつてエロ本には、自由が詰まっていた。

 2019年のエロ本死亡遊戯。

 すでに地方じゃコンビニが本屋だ。地元の田舎町では子どもの頃に通った書店が3軒とも潰れちまった。Amazonとかネット通販を利用しない中高年はまだ多い。中にはスマホやタブレットを触ったこともない人もいるだろう。となると、自然とコンビニに置かれる雑誌や漫画を買う。セブンイレブンやローソン、続いてファミリーマートが今年8月末までに全国で成人向け雑誌の販売を原則中止することが報じられたが、コンビニへ年金片手に走り、そこで買うささやかなエロ本を人生最高の楽しみにしていた日本全国のお爺ちゃんたちは大丈夫だろうか? って余計なお世話だコノヤローである。数十年後、自分がジイさんになったらそう思う気がする。

 正直、河原に落ちてるエロ本に興奮した最後の世代の俺らにとって、すでに成人雑誌は「ノスタルジーの中」にある。最近、読んでる? って言われてみたらゴメン全然買ってねえよ。だから、ジャンルとして演歌に近い。元エロ本編集長いわく、2005年のシール綴じで実質コンビニエロ本の役割は終了しており、クローズドな世界になっていたという。確かに昔はグラビアから大人の世界を垣間見て、モノクロページで映画、音楽、アイドル、プロレス、野球、なんでもありの自由なコラムを読むのが好きだった。プロ野球死亡遊戯ブログも最初はそんなテイストに影響されて書いた記憶がある。けど、そりゃあ過去なんだ。最高に楽しかったけど、今じゃない。魂みたいなものは引き継ぐけどね。なんつって、今週も新宿の『JINJIN』でミートチーズナポリタンをかっ食らいながら、バーリトゥードコラム『燃えデブ』が始まった。

もしも出場機会に恵まれない選手の移籍ドラフト制度があったら、橋本到は指名されていた選手かもしれない

 全豪オープンVの女子テニス大坂なおみの偉業とサッカーアジア杯で、すっかり野球界のニュースが目立たなくなってしまったが、個人的に気になったのはNPBと日本プロ野球選手会の事務折衝で意見交換された「現役ドラフト」についてだ。主に出場機会に恵まれない若手・中堅選手の移籍を活性化させる制度。これはぜひ実現してほしい。だって、普通の会社員でも何年かくすぶり続けると「あぁしっかり評価してもらえるところに転職してぇな」とか「環境さえ変われば俺だって」なんて思いがち。実際に自分もそれで20代の内に何度か転職したことがある。でも、やがて嫌でも気付くわけさ。あれ? 会社以前に俺も甘かったんじゃねえかってさ。すると、不思議と過ぎ去った時間に対する後悔も消えるんだ。

 なんて前置きが長くなってしまったが、オフに巨人から楽天へ金銭トレードされた橋本到も、現役ドラフトがあれば指名されていた選手かもしれない。90年4月生まれの28歳。プロ10年目の昨季は自主トレ中に肉離れを起こして出遅れ、1軍出場なし。気が付けば、今季開幕直後には29歳になる。仙台育英では主将を務め、“東北のイチロー”“赤星2世”と称された逸材が地元へ帰る。08年夏の甲子園では菰野高(三重)の西勇輝から5打数5安打の固め打ちでチームの勝利に貢献。中堅守備では遠投120メートルのレーザービームを披露し観客の度肝を抜いた。だが、あれから10年が経ち、いまや西は4年10億円のFA選手、橋本は年俸2900万円の崖っぷちアラサーだ。楽天外野陣には田中和基、島内宏明、マイナー通算169発の新助っ人ブラッシュ、同じ左打ち外野手のドラ1辰巳涼介もいる。チームが変わったら試合に出られるなんてスウィートな世界じゃない。

 それでも、橋本は20代後半に移籍できて良かったと思う。だって、始まりから終わりまで1チームでキャリアを終えれば、人によっては環境が合わなかったから……なんてエクスキューズの泥沼にハマっちまう。けど、移籍先でも1軍出場できなかったら、もう「ベンチがアホやから」なんてチームのせいにはできやしない。素直に己の実力不足だと第二の人生に踏み出せる。様々なハードルをクリアして現役ドラフトが実現しても、新天地で開花するのはほんの一握りだろう。でも、だからこそ、やる意味はある。重要なのは活躍できるかどうかじゃなく、プロ野球選手を辞めても人生は続くってことだ。

やっぱりあらゆる判断基準は「ノスタルジー」じゃなく「今」に置いておきたい。

 アスリートもアイドルも輝ける時間は短い。チームやグループは刻一刻と変わり続ける。SMAPや嵐だって永久に不滅じゃない。5年前の2014年シーズンの巨人開幕スタメン外野陣はライト長野、レフトはアンダーソン、そしてセンター橋本とすでに全員が球団を去った。だが、楽天の新背番号49は数年前に阿部慎之助が『ジャイアンツ80年史』(ベースボール・マガジン社)のインタビューで巨人の次世代リーダーを聞かれ、「近未来的に言うと、坂本勇人。その次は僕個人的には橋本到にやってほしいな、と思っています」と答えたくらい将来を嘱望された男だ。

 べらぼうに期待値が高かった分、近年の橋本はファンの「ノスタルジーの中」に存在していた感は否めない。1軍出場ゼロだけどあの頃は良かった、凄かったよね枠。現在進行形じゃなく過去。やっぱりあらゆる判断基準は「ノスタルジー」じゃなく「今」に置いておきたい。橋本到の時計は移籍したことで、またリアルタイムで動き出したわけだから。

 いやぁ気をつけないとね。最近のパワハラとかセクハラとか、コンビニのエロ本問題とかも、自分の若い頃は……みたいなノスタルジーを根拠に論じてもあまり意味はない。説得力もゼロだ。かと言って、30代40代は開き直るには先が長過ぎる。もう覚悟を決めて、2019年の今を行くしかないんだよ。

 俺はだんだん消えて行くくらいなら、激しく燃え尽きた方がマシだ。仙台の橋本の、そしてあの頃河原に落ちてるエロ本に興奮した男たちの健闘を祈る。

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