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令和元年の上原引退で『2049年のプロ野球』を見たくなった【燃えろ!!デブ野球】第70回

燃えデブ第70回はシーズン中に突然の現役引退を表明した上原浩治

子どもの頃、楽しんでいたものを掘り下げる。これが大人の贅沢な楽しみだったりする。

 図鑑ってこんなに重かったんだな。

 いきなりオッパイってこんなに柔らかかったんだな的な書き出しになっているが、学研の図鑑シリーズのキン肉マン「超人」図鑑を手に取って、そんな当たり前のことを思い出した。久々にジムのプールに入ると、夏休みのプール教室と同じ身体がズシリと重くなる疲労感の記憶が甦るあの感じ。重厚なケースに紙、実物大の「ウォーズマンのベア・クロー」写真とか、ベンキマンの頭部のウンコオブジェについて詳細な解説。バッファローマンの身長250cmだったのか……的な知る喜びの底なし沼。キン肉マンはもちろん、分厚い図鑑そのものへのノスタルジーもあり最強のコラボ企画に仕上がっている。子どもの頃、楽しんでいたものを掘り下げる。これが大人の贅沢な楽しみだったりする。数多くの80年代、90年代の新日本プロレスやUWF系の振り返りムック本が発売されているのも、あの頃の謎の答え合わせだったりするわけだ。

 ちなみに今日買った本は雑誌KAMINOGEの人気連載を書籍化した『プロレス取調室 さすらいのアウトロー編』(毎日新聞出版)、船木誠勝が「いいとこ連れてってやるよ」と金玉を触ってきた長州なんて15歳の頃の思い出を語る『証言 長州力「革命戦士」の虚と実』(宝島社)、さらに元新日本プロレス営業部長の大塚直樹の日記を元にした『クーデター 80年代新日本プロレス秘史』(宝島社)まで。しかし、これだけ続けて同ジャンルの本が出るってことは、もう出れば反射的に買う一定の固定読者がいるってことだろう(俺やこの連載の担当H編集マンのように)。みんな数十年越しの答え合わせを楽しんでいるわけだ。そう言えば新刊の『平成プロ野球死亡遊戯』はカバーデザイン金井久幸さん、イラスト師岡とおるさんだが、これも『プロレス取調室』の装丁デザインを手掛けたゴールデンコンビの仕事だったりする……なんつって、さりげなく自著の告知をぶっこんで東京ドーム内で「上原浩治 魂のアボガドチーズドッグ」を頬ばりながら今週も地獄の断頭台コラム『燃えデブ』が始まった。

99年巨人戦中継の年間平均視聴率は「20.3%」。現代に置き換えると、NHK朝ドラの『なつぞら』クラスのお化けコンテンツ。

 ゴメン、正直不味い。いや、上原のアボガドチーズドッグはパンもソーセージも冷えていてまったく美味しくなかった。ドームのホットドッグの不味さはもはや30年変わらない伝統芸能みたいなものだ。学食のカツカレーが実はハムカツじゃねえかレベルの安定度。とか言ってたら上原の電撃引退発表により6月2日で販売終了。ついに日米通算でトリプル100を達成した男も44歳で現役を退いた。発表後、テレビ各局のニュース番組に出演しまくる右腕を見ながら、ふと思う。いまだに巨人の(最近まで)現役選手では最も有名なプレーヤーなんじゃないかと。上原のデビューは1999年、長嶋監督のもと25歳の松井秀喜が自身初の40本台クリアとなる42本塁打を放ち、24歳の高橋由伸も打率.314、34本、98打点でベストナインとゴールデングラブを受賞し、ゴールデンルーキー上原は20勝を挙げて投手タイトルを独占した。ちなみに99年巨人戦中継の年間平均視聴率は「20.3%」。なお巨人戦視聴率が平均20%を越えたのはこの年が最後だ。

 強引に現代の視聴率に置き換えると、NHK朝ドラの『なつぞら』クラスのお化けコンテンツ。しかも、テレビCMでも松井は富士通や久光製薬、由伸がサントリー、上原がハウス食品とそれぞれ大企業の顔としてお茶の間を席巻。いわば、世間に対して広瀬すずクラスの知名度を誇っていたモンスタープロ野球選手たちである。例えば、現在4番を打つ岡本和真にしても、ゴジラ以来の日本人打者年間50本塁打をクリアしそうな西武の山川穂高にしても、渋谷でアンケートを取っても顔と名前が一致しないケースの方が多いだろう。恐らく90年代プロ野球は世間の日常と繋がっていた最後の時代だった……と先日、ラジオ『渋谷ライトスタンド』で喋ったら、出演後にふとパーソナリティでライターの村瀬秀信さんが「俺らが小さい頃、いつまでもONが最強とか酔っ払ってるおっさんに何言ってんだって思ったけど、気が付けば90年代のプロ野球が熱いとか言ってる自分たちも、そういうオヤジになってきたってことじゃない?」みたいなことを話していてビビった。まさにその通りだったからだ。気が付けば、確実に中年男性の視点である。

信じられる? 令和も30年近く続くなら、2049年には坂本が今の原監督と同じ60歳になってるんだよ。

 仮に令和も30年近く続くなら、この元号が終わる頃の2049年には今の高校生だって、40代後半のおじさんおばさんだ。その時、みんなで坂本勇人や鈴木誠也がどれだけ凄かったかみたいな話を懐かしくするのだろう。信じられる? 坂本が今の原監督と同じ60歳になってるんだよ。平成元年の球界を考えたら、30年あればプロ野球も激変する。いくつか身売りもあれば新球団もできている可能性が高い。ソフトバンクと6年契約で話題の19歳右腕カーター・スチュワートのような日本経由メジャー行きコースも定着して、学研から「令和プロ野球図鑑」とか出ているかもしれない。その最初の方のページに「令和元年の上原引退」と書かれるはずだ。まるで今の俺らが平成元年の中畑清の引退を語るようにだ。

 楽しみだよね。リアル『ブレードランナー2049』の世界。令和の終わりに過去と未来の答え合わせをするために、元気に生き延びようじゃないか。

※編集部からのお知らせ
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