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マツダスタジアムで「こち亀」の“光の球場”を思い出した【燃えろ!!デブ野球】第72回

燃えデブ第72回は「こち亀」でも描かれた光の球場・東京スタジアム!

正直に書くと、20代後半にまた熱心にプロ野球を見るようになった最大の理由は「東京ドームが当時の家から近いから」だった。

 家から近いから。

『スラムダンク』の流川君じゃないけどさ。人生の決断をするとき、意外と多い理由はこれだと思う。人って、何かの決断に対してあとづけでドラマティックなストーリーを言いがちじゃん(ゴメン俺もたまに取材受けると適当なことを喋りがち)。でも、よく思い出してみたら実はたいしたことない理由だったりする。なんであの学校を……っていやウチから近いからみたいな。合コンだって、お互い住んでるところがあまりに遠いとちょっとテンション下がるも、最寄り駅が近いと会社帰り飲み行こうかなんつって盛り上がるあの感じ。正直に書くと、個人的に20代後半にまた熱心にプロ野球を見るようになった最大の理由は「東京ドームが当時の家から近いから」だった。ついでに言えば、両国国技館もチャリンコ圏内で、ひとりでふらっとプロレス観戦にも何度か行った。

 偶然の産物。初めて就職した胡散臭い制作会社は築地あたりにあってさ。もちろんブラック企業当たり前の平成中盤、残業で終電がなくなった夜もタクシー2000円台で帰れる場所って理由で部屋は総武線沿線の街を選んだ。こち亀世代としては下町近辺に住めるとか感慨深かったけど、当時は東京ドームは全然頭にない。それが、数年経過して初めてドームへ行ったときに「なんだよウチから近いじゃん」なんてようやく気付くわけ。スポーツ観戦は会場に行きやすいって超重要だよね。例えばJリーグのスタジアムは駅や市街地から遠い場所も多くて、なかなか新規のライト層には厳しい。利便性、ホーム感覚と「自分のチーム」を応援するって気持ちになるためには「近さ」こそ正義だ。まあ家が遠かったら野球を見にいって、試合終了後ダッシュで帰り午前0時までに記事アップとか死んでも無理でしょ。人生は偶然の連続が必然になる……なんつって『銀座 元楽』でぶためしをかき込みながら今週も家ついて行ってイイですかコラム『燃えデブ』が始まった。

こち亀82巻に収録されているのが「光の球場!」。荒川区南千住に建てられた東京スタジアムを舞台にした物語である。

『こち亀』で思い出したけど、今『平成こち亀』ムック本が平成3年分までコンビニに並んでいて、やっぱりあの頃の作品は抜群に面白い。当時の少年ジャンプの凄さって、実はこち亀だよね。孫悟空や桜木花道が第2次UWFにおける前田日明とか高田延彦的なヒーローなら、両さんは“関節の鬼”藤原喜明。70巻から92巻あたりのギャグのキレと漫画界のテロリストぶりは、ノスタルジー抜きに今読んでも本当に奇跡としか言いようがないクオリティとテンションだ。そしてこち亀全盛期ど真ん中の1993年8月発売の82巻に収録されているのが「光の球場!」。1962年(昭和37年)6月、荒川区南千住に建てられた東京スタジアムを舞台にした物語である。大毎オリオンズの永田雅一オーナーが私財を投じ建設。アメリカのサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地をモデルにキャンドルスティックという独特の照明塔が6基設けられており、後楽園球場を上回る1600ルクスの明るさはまだビルも少ない下町で輝く“光の球場”と称された。

 小学生の両津勘吉は父親の自転車の後ろに乗り、強烈な光を発する東京スタジアムへと向かう。元気よく大声出して応援をかましオリオンズに得点が入ると、下町のオヤジたちからジュースや焼そばをご褒美に貰い腹ごしらえ。ついでに球場専属の美人アナウンス嬢に惚れたりするわけだ。だが、彼女がオリオンズのスター日向選手と結婚することを知ってしまう。……って恋のストーリーはあまり重要じゃない。そこには下町の日常の中に存在するプロ野球の姿が完璧に描かれている。さらにシーズンオフにはグラウンドが一周450メートルのアイススケート場となり、スタンド下にはボーリング場もある。時にジャイアント馬場がプロレス興行も打つ。そんな娯楽の殿堂も、テレビの普及により映画産業が衰退。大映は71年1月限りで球団をロッテに譲渡するも、同年倒産。72年に球場閉鎖が決まる。わずか10年の短い期間、下町の人々を楽しませた東京スタジアムについて大人になった両さんは言うのだ。
「光のごとく現れ消えていった気がする。まさに俺たち下町生まれにとって夢と光の球場だったなあ」

カープのユニフォーム姿の親子連れがチャリンコに乗って球場へ向かう。光の中に吸い込まれていくみたいにさ。

 で、8年前に広島のマツダスタジアムへ初めて行ったときにこの物語を思い出した。カープのユニフォーム姿の親子連れがチャリンコに乗って球場へ向かう。本当に近所のスーパーに晩ご飯の買い物に行くような様子で野球観戦へ。テレビにはめったに映らないけど球場前に大きめの駐輪場があって、無数の客が光の中に吸い込まれていくみたいにさ。オラが街の地元球団とキラキラした真新しいスタジアム。これって現代の光の球場だよなって。

 いいよね。俺はそんな「日常と非日常の境界線に存在する場所」を大事にしたい。馴染みのスナックとか行きつけのラーメン屋とか洗体エステとか。みんなそれぞれあるでしょ、そういうオンとオフを切り替える場所。そう言えば新入社員時代、慣れない仕事と人間関係でどうしようもなく疲れたら、『元楽』の脂こってりラーメンにたっぷりニンニクをぶちこんで、名物のぶためしと一緒にかき込んだ。

 もちろんスープが飛び散ってところどころ茶色く変色した『こち亀』のコミックスを読みながら。

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