レッドフォード引退作とおかわり君400発! さらば愛しきデブ野球【燃えろ!!デブ野球】第78回
燃えデブ第78回は史上20人目の偉業!おかわり君400号本塁打!
この連載コラムも単行本目安の80回に届くので今月いっぱいで一旦終わる(9月頃に先行電子書籍化予定)。
「俺は自分のできることが分かってる。同時に自分の限界も知っている」
映画『さらば愛しきアウトロー』の中にそんなような台詞が出てくる。ロバート・レッドフォードの俳優引退作が上映される日比谷シャンテは平日午後にもかかわらずほぼ満席。しかも中年の自分たちが館内最年少じゃねえかレベルで観客席の年齢層は高かった。恐らく、82歳のレットフォードのキャリアと同時代を生きた人たちだろう。なんかいい風景だなと思った。
実はこの連載コラムのコンセプトは「同世代に向けて書く」ということだ。60代や50代の人からしたら「働き盛りの男がなに青いこと言ってんだ」って内容だし、10代や20代の若者からしたら中年ライフにリアリティがなくて意味不明だろう。でもそれでいい。最初から30代・40代に向けて書いた。俺は79年生まれなんだけど、同年代のライターが少ないんだよね。就活時に雑誌不況ファーストインパクト直撃世代だし、SNSから自分で発信みたいな世の出方も学生の頃にはまだなかった。だから、担当のH編集マンが「30とか40のおっさんビギナーに向けた内容で」とオファーされたときにヤル気になったわけ。で、その連載も単行本目安の80回に届くので今月いっぱいで一旦終わる(9月頃に先行電子書籍化予定)。って結局宣伝かよっ! なんつって今週も日比谷の『新潟カツ丼 タレカツ』をかっ食らいながら明日に向かって撃つコラム『燃えデブ』が始まった。
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也著/新潮社)を読んでいたら意外な発見があった。
なんか曇り空のテンションが上がらない梅雨が続くけど、ジメジメ暑くて体力は奪われる。で、人は本当に疲れた時、ネットショッピングにハマる。ゲームで遊ぼうとしても操作がグダグダ。かと言って、ガチで映画を観たり、チンチンをいじったり、本を読むのはそれなりのパワーがいる。というわけで、スマホ片手にソファに寝転びながらぼんやりAmazonを眺めたりするわけだ。そう言えば、阿部慎之助も全盛期には毎日寝る前に楽天で洋服を物色しまくり。もうすっかり楽天プラチナ会員で、「きりがないので、すごく高い服とかを見て、これは買えないなって納得して寝るようにしています」なんつって、当時の球界最高給の年俸6億円でも買えない服ってどんなやねんとファンはざわついた。
そんな真夜中のAmazonで買った『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也著/新潮社)を読んでいたら意外な発見があった。巨人の立岡宗一郎は小1から小3まで柔道県大会で優勝経験者という経歴の持ち主だが、立岡の出身校・熊本鎮西高校(旧制鎮西中学)が木村政彦の母校だったのである。長年の謎はすべて解けた。鬼の木村を輩出した地、柔道が盛んな地域なのだろう。「プロレスラー力道山との試合に不意打ちで負けた柔道王」くらいの認識だったが、この本によって全日本選手権13年連続優勝という圧倒的な実績を誇った木村の強さの真髄を知った人も多いと思う。残念ながら戦後史もしくは昭和史において、テレビスター力道山の功績はメディアによって広められたが、木村政彦はほとんど歴史上から黙殺されてしまった。
木村政彦が昭和格闘史を象徴する柔道家なら、中村剛也は平成球界を象徴するホームランアーチストと言っても過言ではない。
で、思い出したのが西武の中村剛也のことだ。19日のオリックス戦、サヨナラ弾で通算400号本塁打を達成した生え抜きスラッガー。スポーツ報知の記録メモによると、清原和博329本、秋山幸二328本を越えて西武初の大台到達。通算1611試合目の達成は王貞治、タフィ・ローズ、田淵幸一、落合博満に次いで5番目のスピード記録だ。凄い、出てくる名前みんなレジェンド級。通算HRランキングの400本塁打以上を見ると、現役では402本の阿部慎ちゃんと400本の中村しかいない。現代野球では200勝が難しいと言われているが、実は400号達成者も超レアである。入れ替わりの激しい今の球界で20発を20年、もしくは25発を16年で到達って気の遠くなるような数字だ。意外なことに2002年、日本人選手で平成唯一の50本塁打を達成した松井秀喜もNPB通算332本(日米通算507本)。令和元年のおかわり君の偉業をヒシヒシと実感する。……なんだけど、世間の話題もスポーツ新聞の一面も例の吉本興業の件が独占するリアル。いやぁ頼むぜ、おかわり君最強説はもっと語られるべき案件だ。
筋肉質のアスリート型選手が増える中、懐かしのあんこ型ボディから8割の力の入れ具合でスパッとどデカイ一発をかっ飛ばす。ホームランキングに6度輝き、通算満塁弾18本、231人の投手から本塁打はそれぞれプロ野球最多記録。何か派手なパフォーマンスをするわけでもない。黙々と相手投手を葬り去る仕事人。このメジャー移籍が止まらない時代、日本球界だけでホームランを打ち続けた中村には凄味すら感じさせる。木村政彦が昭和格闘史を象徴する柔道家なら、中村剛也は平成球界を象徴するホームランアーチストと言っても過言ではない。阿部より5つ下の年齢と出場数を考えると、近い内背番号60が現役最多本塁打レコード保持者になるはずだ。
我々はこの10数年間、中村剛也のホームランと同時代を生きてきた。日比谷シャンテで最後のレッドフォードを見るご婦人のように、数十年後におかわり君って凄かったんだよとジイさんになった俺らは酒を酌み交わしながら話すのだろう。
その光景を想像したら、なんか歳を取るのも悪くないなって思ったんだよ。
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