Lifestyle

俺らは「誰にだって中島宏之になる可能性がある」と悟った甲子園の夜【燃えろ!!デブ野球】第71回

燃えデブ第71回は巨人でNPB17年目のシーズンを戦う中島宏之!

5月の終わりに甲子園へ行って来た。巨人との伝統の一戦はマジ久しぶりだ。長嶋監督ラストゲーム以来だった。

 今、合コンに呼んでもらえたらコーチ的な立ち位置で貢献できるんじゃないか?

 38歳の友人が王将でチャーハン大盛りを食いながらふとそんな言葉を呟いた。結婚して父親になって以来そういう席もご無沙汰だけど、今ならガツガツせずに一歩引いてチームを助けられるはずだと。俺は言った。いや思い出してくれよ、自分たちが20代の頃、飲みの席にひとりおっさんがいると超やりにくかったじゃんと。気をつけろよ。やたらと儲け話をしたがる奴と年下にアドバイスをしたがる人間は信用されない。それは一種の勘違いの押し売りだからだ。時々、スポーツライター志望の人にアドバイス的なことを聞かれるが、はっきり言って分からない。死亡遊戯ブログを始めたのはもう9年前だし、今とはかなり状況が違う。だからこれからの書き手はどう世に出ればいいかって、ゴメン知らん。俺が唯一できるとしたら、どこかの媒体と組んで夏の甲子園的なライター登竜門ステージを用意するくらいだと思う。

 で、5月の終わりに甲子園へ行って来た。高校野球とか阪神戦はちょくちょく行く機会があったが、巨人との伝統の一戦はマジ久しぶりだ。……って三塁側アルプススタンドで夜風に吹かれながらよく思い出してみたら2001年10月1日の和田豊引退試合、つまり長嶋監督ラストゲーム以来だった。そうだよ、まだ大学生でカプセルホテルのバイトの同僚グループで呑気に観戦。当時はPS2ソフトの『オールスタープロレスリング2』で三沢光晴と武藤敬司の夢の共演CMが話題になったりしてさ。気が付けばあれから18年か……。オリックスドラ1の太田椋とかヤクルトのドラ3ルーキー市川悠太は01年早生まれだ。一緒に野球を見に行ってた奴らは今頃なにやってんだろうななんつって、球場限定のピザーラ『ソーセージとミートソースのピザ』をかっ食らいながら今週も究極ハリキリコラム『燃えデブ』が始まった。

中島を三ツ矢サイダー片手に眺めながら、プロ野球選手のキャリアについて考えちゃったよ。何が正解なんだろうって。

 で、その甲子園で結構野次られてたのが巨人の中島宏之だ。36歳のベテランはここまで52打席に立って打率.171、0本塁打、2打点。翌日に2軍落ち。その中島を三ツ矢サイダー片手に眺めながら、プロ野球選手のキャリアについて考えちゃったよ。何が正解なんだろうって。中島と言えば、西武時代はアイドル的な人気を誇り、2008年には「1番片岡 2番栗山 3番中島」でレオ打線を牽引し日本一に。しかも“おかわり君”こと中村剛也を含め、全員20代中盤の若さである。この年の中島は打率.331、21本塁打、81打点、OPS.937、ショートとしてベストナインとゴールデングラブも受賞した。つまり泣く子も黙る「松井稼頭央のあとに正遊撃手を託され、清原和博の背番号3を継承した男」だったわけだ(ついでに巨人でも清原の背番号5を背負っている)。……ってあらためて文字にすると凄い。選ばれし者の恍惚と不安、二つ我にあり状態。もしずっとチームに残っていたら、今頃は400号を放った阿部慎之助のような生え抜きのミスター・ライオンズとして、大声援を受けながらメットライフドームの打席に立っていたかもしれない。

 だが、中島はアメリカに夢を見た。11年オフにポスティング申請しヤンキースが落札したが、条件面が折り合わず西武残留。この辺からちょっとずつキャリアの雲行きが怪しくなる。翌年に海外FAでアスレチックスへ移籍するが、メジャー昇格できず、15年にオリックスで日本復帰。モヒカン頭や、相変わらずの乱闘騒ぎが話題に。時折輝きを見せるも、全盛時とは程遠い成績。昨オフにオリックスとの交渉が決裂し、年俸1億5000万円で原巨人へ。……なんだけど、まったく結果が残せていない。正直、タイミングも悪かった。ポジションや年齢や給料を考えたら、村田さんやマギーを切ってまで中島を使うのか的な巨人ファンの怒りが中島に集中してしまった感は否めない。同じデブなら功労者を……じゃなくて、いつの時代も転職組は新天地で即結果を残さない限り未来はない。

怖いよ、キャリアなんていつどうなるか分からへん。俺もあんたも誰にだって、中島になる可能性はある。

 広島戦の頭部死球を食らってあわや乱闘騒動も、東京ドームの客席の雰囲気は「なに怒ってんの?」的な冷めた空気がほとんどだった。これが当てられたのが坂本勇人だったら、観客のガチの怒りでかなり険悪な試合になっていただろう。って、西武時代のナカジは、今の坂本みたいな立ち位置の選手だったんだよね。完璧なショートストップにしてチームの心臓部。怖いよ、キャリアなんていつどうなるか分からへん。俺もあんたも誰にだって、中島になる可能性はある。橋本真也のZERO-ONE設立みたいなさ。だから、個人的に静かに背番号5の逆襲に期待してる。数年後、今応援してる選手が現役晩年に流れ着いたどこかの球団でディスられてたら、ヘコむじゃん。2008年の日本シリーズで見た中島は死ぬほどキラキラしてたよ。それが11年後には打率1割台で2軍落ち。栄光と転落、そしてもう一度這い上がるリアルベースボールムービーを見てみたい。

 俺らも若手にアドバイスしている余裕なんかないよ。あがき続けよう、回り続けよう、現役プレーヤーで戦い続ける限りはね。

※編集部からのお知らせ
【燃えろ!!デブ野球】の著者、中溝 康隆(プロ野球死亡遊戯)さんの新刊「平成プロ野球死亡遊戯」が発売中!!
下記リンク先amazonよりご購入できます。
https://www.amazon.co.jp/dp/4480879072/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_Q9S6CbAJ6CQG8

<関連記事>
【燃えろ!!デブ野球】あの頃、僕らはみんなデブだった
オリックス頓宮裕真のアーチにアラフォー男は生き様を問われた【燃えろ!!デブ野球】第60回
「イチローは球界のアントニオ猪木である」と気付かされた闘強導夢2019【燃えろ!!デブ野球】第61回
プロ野球開幕前夜! 春にしてゲレーロを想う【燃えろ!!デブ野球】第62回
ショーケンと澤村と傷だらけの31歳男のリアル【燃えろ!!デブ野球】第63回
代打を送られたビヤヌエバに見た「たかが1年、されど1年」【燃えろ!!デブ野球】第64回
1995年の安室奈美恵と福留孝介「アムラー&ドメラー世代」の今【燃えろ!!デブ野球】第65回
さらば、平成プロ野球【燃えろ!!デブ野球】第66回
中日ロメロのグラブ叩き付けは、プロ野球“情報”ではなく“娯楽”だった【燃えろ!!デブ野球】第67回
球場グルメは野球観戦を “日常”から “イベント”にしてくれる【燃えろ!!デブ野球】第68回
「武藤敬司のムーンサルトプレス」と「大田泰示のホームラン」【燃えろ!!デブ野球】第69回
令和元年の上原引退で『2049年のプロ野球』を見たくなった【燃えろ!!デブ野球】第70回

プロ野球死亡遊戯